十九歳のジェイコブ

中上健次「十九歳のジェイコブ」

中上健次の長篇の中では忘れられたような作品のため、今まで読んでいなかった。

文章そのものは中上作品ではかなり読みやすいほうで、随所に挟まれる回想も中味はグロテスクだが読んで鮮やかな印象を受ける。

この小説には、中上作品特有の、むせかえるような土地の匂いが無い。代わりに作品を通じてジャズが響き続ける。「路地」の外に新たな物語を書こうとした中上がコルトレーンやアイラーの音を頼りとしたように思える。結局、ジャズは路地の空気に代わるものにはなり得なかったが、根底にある渇きのようなものは中上作品そのもの。

秋幸三部作と共通する要素も多く、青春小説版枯木灘と言えるかも。

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