阿弥陀堂だより

南木佳士「阿弥陀堂だより」

主人公は中年の売れない作家。エリート医師としてのキャリアを積みながら、パニック障害を発症して働けなくなった妻とともに故郷の山村に帰り、そこで堂守のおうめ婆さんを始めとする人々と出会う。百歳を前に自然と共に生きるおうめ婆さんの含蓄に富んだ言葉が、作品の大きな幹となっている。

難病を抱える少女の存在の他は劇的な展開は何も無いし、悪人も一人も出てこない。人間の負の側面や悲劇的な出来事を物語の装置のように使う小説が多い中、著者の作品に漂う静けさは心地良い。フィクションが特別なことを描かなくてはならない理由はない。

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