兄帰る

永井愛「兄帰る」

多額の金を横領して失踪した兄、幸介が十数年ぶりに帰ってくる。親戚も交えて責任を押しつけ合う中、流され続ける弟、保。“部外者”として正論を吐き続ける保の妻、真弓。人物描写が絶妙で、登場人物の誰にも愛着が持てない一方で、どこか感情移入してしまう部分がある。「正論の怪獣」の真弓が最後に揺らぐことで、正論なんてそもそも幻想ではないのか、誰もが欺瞞の中で生きているなら、嘘つきの幸介が一番筋が通っていて、だからこそ一番やっかいなのだ、そんな気さえしてしまう。

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