血と夢

船戸与一「血と夢」

冒険小説の大家、船戸与一の初期の作品。1982年刊。

舞台はソ連侵攻直後のアフガニスタン。元自衛官の主人公は、亡き友人の娘の手術費用を稼ぐため、米国に雇われた工作員としてアフガニスタンに潜入する。

非常にスケールの大きな物語で、米ソの対立に加え、ソ連傀儡政府とムジャヒディン(イスラム戦士)の戦い、CIAと陸軍の縄張り争いという米国内の事情、ソ連内部の政治抗争など、複雑に入り組んだ政治状況が描かれる。むしろ小説としては舞台を広げすぎぐらいの印象で、序盤は物語についていくのがなかなか大変。

ムジャヒディンの抱える夢、そのために流されなくてはならない血。憎悪の連鎖によって、夢と血が不可分になってしまったアフガニスタンの姿が胸を締め付ける。アフガニスタン情勢はこの作品の刊行後も大きく変化し、タリバン政権の樹立、9.11後の米国による攻撃へ経て、泥沼化していく。誰も救われない小説の結末は、まるで現代を予言したかのようだ。

巻末に著者がムジャヒディンとともにアフガニスタンに入った際のルポが収録されており、当時の国際情勢とアフガニスタンの状況、どのような取材をしてこの作品が生まれたかが分かり興味深い。

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