ボクには世界がこう見えていた ―統合失調症闘病記

小林和彦「ボクには世界がこう見えていた ―統合失調症闘病記」

統合失調症の患者の手記。闘病記と言うよりは、幻聴、幻覚が本格的に始まる前の臨界期のことを書いたもの。

大学を卒業し、アニメーション制作会社に就職した頃から少しずつ、自分こそが世界の中心という妄想に陥っていく。些細な偶然に深遠な意味を読み取り、新聞記事やラジオの言葉が自分宛のメッセージと思い込んで、世界平和への使命感に燃える。脈絡の無い思考の中で〝世界の真実〟を掴んだ気になる。

文章は整然としているが、独りよがりな思考を読み進めるのは決して楽ではない。ただ何となく自分も昔こんな風に無闇にいろいろなことを考えていた気がして、他人事とは思えないし、おかしいとも感じない。

思春期の頃に前のめり気味だった思考は、どこかで安全弁や自動ブレーキのようなものができた気がする。誰しも大人になるとはそういうことかもしれない。思考が暴走した著者と、思考が落ち着いていった他の大人との違いはどこにあるのだろう。

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