江戸時代の天皇

藤田覚「江戸時代の天皇」

安定した時代ほど天皇の姿は見えなくなる。 江戸時代の天皇の存在感に興味があって手に取った本。

江戸初期から、幕府による禁裏と公家に対する統制がかなりしっかりしたものだったことにまず驚く。後陽成、後水尾は当初幕府と対立(というより思うようにできない朝廷側の焦燥)したが、やがて朝廷と幕府が互いに支え合う体制ができ、同時に中世以降絶えていた朝儀の復興が進んだ。江戸中期までは朝廷が幕府を利用する面も多かったが、やがて幕府が朝廷を権威付けに利用するようになり、家斉の頃から官位バブルが始まる。これが幕藩体制の緩みとともにエスカレートし、開国の正当性のため天皇の勅書を得ようとしたことで公武合体と尊皇攘夷に朝廷と国を二分する混乱に突入していく。

新井白石の「北朝以後の天皇は武家の都合で立てた」など、 南朝の終焉をもって古代以来の天皇王朝は終わり、天命が改まったという認識が広く共有されていたということが興味深い。幕末以降、万世一系が強調されたためか、この認識は薄れたが、確かに武家政権の成立こそが、天皇制が利用されるものになったという点で、日本史上、国体の最大の変化かもしれない。

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