ギッちょん

山下澄人「ギッちょん」

初期の短編集。木訥とした文章だが、独特のリズムと視点を持って書かれており、丁寧に読み解こうとすると途端に行き詰まる。語り手の見ているもの、意識に浮かんだもの以外を読み手は知ることができない。時系列も視点も混濁した文章に身を任せた時、不思議な情景が浮かび上がる。

幼なじみの記憶を軸にさまざまな場面を意識が行き来する「ギッちょん」、父や母らの思い出を巡って死と生の曖昧な領域が浮かび上がる「コルバトントリ」の2作のほか、「水の音しかしない」「トゥンブクトゥ」を収録。

芥川賞受賞作の「しんせかい」はシンプルで抑制的な構成の中に詩情があったが、本書に収録された初期の作品では表現の冒険をしつつ、自由に筆を走らせている。ただ個人的には4作を続けて読むと、やや食傷してしまった。少しずつ味わうように読むのがいいかもしれない。

コメントを残す