HHhH

ローラン・ビネ「HHhH」

タイトルはHimmlers Hirn heißt Heydrich(ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる)という言葉から。ハイドリヒの暗殺事件を題材にしているが、一般的な歴史小説の文体をとらず、語り手が頻繁に登場し、叙述の悩みを吐露するメタ構造をとっている。

暗殺計画を描く小説でありながら、それ以上に小説を書くことについての小説である。故に語り手は小説的な“中立”の立場から自由で、チェコスロヴァキアへの愛着と、ナチへの憎悪、軽蔑を隠そうとしない。最後、襲撃とその後の教会での攻防のシーンは、歴史事実の迫力とそれに向き合う著者の苦しみが二重になり大きな効果を生んでいる。メタ小説そのものは珍しくも何ともない(そして大抵はつまらない)が、これは圧巻。

読み終えて、十年前プラハを訪れた時に通りかかった教会がその現場だったことに気づいた。壁に残された銃痕の生々しさが記憶に残っている。

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