ジュライホテルのポーム

吉倉槇一「ジュライホテルのポーム」

自分は06年に初めてバンコクを訪れたので、ヤワラー(中華街)が日本人の溜まり場だった時代は知らない。90年代半ばを過ぎると、欧米人が先行して集まっていたカオサン通りに日本人バックパッカーも吸収され、ヤワラーに滞在する日本人は減った。

ヤワラーには楽宮大旅社、台北旅社といった有名な安宿が何軒かあったが、その中でも特に日本人旅行者に人気が高かったのがジュライホテルで、ポーム(ポンちゃん)はその象徴的な存在だったという。

当初は街娼としてジュライホテルの前に現れ、その後はドラッグの売人として日本人旅行者と深く関わった。親切で人懐こく、金銭的な利害を超えた関係を多くの日本人旅行者と結んでいたようだ。ジュライホテルの閉鎖(95年)から間を置かずに20代で亡くなった彼女については、思い出を綴ったブログやホームページがインターネット上に幾つも存在している。

本書は彼女にまつわる証言を、バンコクの日本人バックパッカー史とともにまとめたもの。当時を直接知っている著者ではなく、時代の空気を感じることはできないが、一歩引いた客観的な視点で書かれていて読みやすい。

 

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