樹影譚

丸谷才一「樹影譚」

短編3本。それぞれの中に入れ子のように別の話が幾つも入っていて、不思議な奥行きを持っている。

特に表題作の「樹影譚」は、エッセイ風に著者自身が木の影に惹かれるという話から書き出し、それがボルヘスの架空の小説についての考察となり、その後にやっと小説の物語が始まる。

その小説も主人公が小説家という設定で、フィクションの構造が何重にもなっていて現実と物語の境界がぼやけてくる。文章はとても柔らかで、さらさらと読めてしまうが、奇妙な後味が残る。

併録の「鈍感な青年」「夢を買ひます」も、およそ丸谷才一でなければ書けなかったであろう不思議な作品。

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