カンガルー・ノート

安部公房「カンガルー・ノート」

かいわれ大根が脛に生えてきた男の地獄巡り。脈絡の無い、物語の飛翔の仕方が夢のよう。ただ意味不明なだけでなく、ちゃんと夢の論理のようにストーリーとスピード感があるのが凡百の前衛小説とは決定的に違う。

高校生のころに読んだ時にはなんとなく面白いという印象しか残らなかったが、今回はあまりに濃厚な死の雰囲気に胸が詰まった。病床の安部公房の夢が駆け巡った“枯野”なのだろう。

「正面に覗き穴があった。郵便受けほどの、切り穴。覗いてみた。ぼくの後ろ姿が見えた。そのぼくも、覗き穴から向こうをのぞいている。ひどく脅えているようだ。ぼくも負けずに脅えていた。恐かった」

安部公房が最期に見つめた究極の恐怖。

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