中島らもエッセイ・コレクション

「中島らもエッセイ・コレクション」(小堀純・編)

中島らものエッセイ集。「生い立ち・生と死」「酒・煙草・ドラッグ」「文学・映画・笑い」「不条理と不可思議」「性・そして恋」など、テーマごとにまとめられたベスト盤的な内容。

型破りな生き方をして早世したイメージが強い作家だが、丁寧に編まれた本書を通じて浮かび上がるのは、その博覧強記ぶりと、他者に向き合う時の真摯さだ。ニヒリストでありながら、ヒューマニスト。恋に関する文章では、ロマンチストでセンチメンタリストな一面ものぞく。

進学校をドロップアウトし、アルコールを生涯の友とし、躁鬱病を患い、破滅的な一生を送りながらも、自分と周りの人間の欠けたところをそのまま愛するまなざしは温かい。「いいんだぜ」のような歌はこの人にしか歌えない。

“我々はこうして夜空に「過去」を見ているわけだが、それなら厳密にいえば、我々が目にするもの森羅万象、何ひとつとして「現在」のものはない。我々が見ているのはこれすべて「過去」なのである。(中略)人間の実相は刻々と変わっていく。無限分の一秒前よりも無限分の一秒後には、無限分の一だけ愛情が冷めているかもしれない。だから肝心なのは、想う相手をいつでも腕の中に抱きしめていることだ。ぴたりと寄りそって、完全に同じ瞬間を一緒に生きていくことだ。二本の腕はそのためにあるのであって、決して遠くからサヨナラの手をふるためにあるのではない”

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