温室/背信/家族の声

ハロルド・ピンター「温室/背信/家族の声」

ハロルド・ピンターの戯曲集。難解と言われる作家だが、「背信」は純粋にドラマとして引き込まれる。不倫する男と女、その夫。ほぼ三人芝居で、関係の終わりから始まりまでの場面を時間を遡って見せていく。その過程で、誰がどこまで知っていたのかが次第に明らかになり、人間関係のさまざまな“背信”が浮き彫りになる。

一方、「温室」は精神病棟か思想犯の収容所らしき施設が舞台だが、内容を一言で言うなら「よく分からない」。この不条理ぶりは全体主義の暗喩と言えなくもないが、むしろ人間の奇妙さを描いていると感じる。
「家族の声」も不思議な作品で、離れて暮らす息子と母、父の語りで構成される。一つ一つの語りは平易だが、それぞれの見ている世界が違いすぎて、いくら読んでも事実にはたどり着かない。

「ピンターは説明しない」というようなことが訳者解説で書かれているが、これが分かりやすい。従来、演劇でも小説でも、登場人物がどうしてその行動を取ったのかは説明されるか自明であるかのどちらかだった。しかし現実の世界にはそんな説明は存在しない。その点でピンターの作品は極めてラディカルで、見る側にも現実と同様の知的負荷をかける。

ピンター作品を多く演出しているデヴィッド・ルヴォーは以前、ピンターを無意識から直接紙に書く作家と評していたが、構成という点では非常に精緻に作られていて、無意識と作為の両面がせめぎ合っている緊張感が作品に漂っている。

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