性・差別・民俗

赤松啓介「性・差別・民俗」

赤松啓介は1909年生まれ。左翼運動で投獄された経験を持つ反骨の民俗学者。本書は「非常民の民俗境界」として88年に刊行されたもので、性風俗、祭り、民間信仰を中心としたエッセイ風の論考集。

名著「夜這いの民俗学」などでお馴染みの夜這いの話題から、祭りや民間信仰と性の解放の密接な関係など、内容は多岐にわたる。その根底に、既存の民俗学への不満と、学問の名を借りて共同体を体系化、組織化しようとする国家や権力への不信がある。

性の話題では、社寺の門前で売春し、その金を賽銭として納めることで厄落としとした風習や、処女を忌避して新婚初夜を村の長老らに任せたことなど、現代からは想像もできない慣習がいろいろあったことが語られている。

一方、差別の問題では、村の社会生活が巧妙にシステム化された差別と一体であったことを指摘する。例えば結婚について、かつては正式な仲人とは別に身元調査を兼ねた仲介役が村同士を結び、結婚相手の紹介を手掛けていた。彼らは噂話を収集し、葬儀などの場に出入りしては精神病や遺伝病が一族にいないか、日頃から情報を集めていたという。

柳田民俗学の問題は「常民」という虚構の概念を作り出したことに加えて、性と差別について触れずに庶民の生活を語ろうとしたことにある。古来、性と差別こそが文化、風俗の基底にあったにも拘わらず。

赤松民俗学は、学問というにはあまりに自身の体験と伝聞に頼りすぎているかもしれない。それでも柳田国男が故意に、あるいは無意識に切り捨ててきた文化の側面を記録したことには大きな意味がある。

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