真剣師 小池重明

団鬼六「真剣師 小池重明」

「新宿の殺し屋」と呼ばれた真剣師(賭け将棋師)、小池重明の評伝。後のタイトル保持者も含めプロを次々と破るほどの腕を持ちながら、酒や金絡みのトラブルが絶えず、3度も人妻と駆け落ちするなど浮き沈みの多い44年の人生を送った。

物乞いの父親と夜の女の母親のもとに生まれ、将棋に本格的に打ち込んだのは高校生の時からという晩学の天才。プロ編入の話があっても、相次ぐ素行不良で台無しに。寸借詐欺を重ねて逃亡し、土方生活で2年のブランクの末、再び東京に姿を現すと、引導を渡そうとした当時のアマNo.1らを次々と撃破。比類なき才能を持ちながら、死の直前まで破滅型の人生は変わることがなかった。

もちろん身近にはいないし、関わりたいとも思わない世界の人だが、こうした世界が社会から無くなっていくのはどこか寂しく窮屈に感じる。この評伝を書いた団鬼六のような人ももう現れないかもしれない。

夭逝した棋士の評伝では、もうすぐ映画が公開される「聖の青春」(大崎善生著)も名著。将棋にしか生きられなかった不器用な青年と、不器用にしか生きられなかった将棋の天才。対照的な面白さ。

コメントを残す