昭和の犬

姫野カオルコ「昭和の犬」

2013年下半期の直木賞受賞作。戦後に生まれ、「昭和」とともに育った少女の半生を、私小説風でありながら、どこか突き放した視点で綴る。

短編の積み重ねの形を取り、どのエピソードにも犬が登場する。作中で大きな事件は起こらず、居心地の悪い家庭で育った少女時代から、実家を離れて上京し、中年になって親族の介護に追われながら半生を振り返るまでの日々が、最少の筆で綴られる。

主人公のイクはひと言でまとめるなら内向的な少女で、理不尽な振る舞いを見せる両親や、人生の不条理に淡々と向き合う。「昭和」は、気付いた時には終わっている。

叙述の視点の置き方が絶妙で、一歩引いた場所から半生を振り返る眼差しには、自身の眼差しを重ねてしまう人が多いかもしれない。著者と世代的に近い直木賞の選考委員の共感を集めたのもそこだろう。

獲得したものを数えるのではなく、被らなくてすんだ不幸を数え、自分の人生は恵まれていたと感慨にふける。遠景として眺めれば、苦しかった時代も、人生も、悪くないものに見える。

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