て/夫婦

岩井秀人「て/夫婦」

ハイバイの「て」を初めて観た時は衝撃を受けた。家族の複雑な感情も、過去のトラウマも、何気ない会話も、一旦舞台に上げてしまえば全てひっくるめて喜劇になるのだと知り、その視点はある種の救いにもなった。もちろん小説でも映画でも「家族」は定番の主題だが、生身の人間の演じる舞台で日常の中の愛憎を見せつけられることほど生々しいものはない。

「て」は祖母の死を巡る物語で、次男の視点と母の視点で同じ時間軸を二度繰り返す。その中で家族それぞれの抱える複雑な感情が浮き彫りになる。「夫婦」は家族に深い傷を負わせた父が死に、家族の過去が語られる。いずれも可笑しくも胸を締め付けられる作品。

ハイバイの作品の多くは作・演出を手がける岩井秀人の体験がそのままモチーフになっている。威圧的で横暴な父と、自身の引きこもり経験。私小説ならぬ私戯曲とでも言うべき内容だが、「て」の巧みな構成や、「ヒッキー・カンクーントルネード」の小説版における描写を見ると、それがユーモアと鋭い観察眼に支えられていることが分かる。

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