ビニール傘

岸政彦「ビニール傘」

社会学者としてさまざまな人生に触れてきた著者の小説デビュー作。エッセイ「断片的なものの社会学」で綴られたものと同じまなざしで、都会の片隅に寄る辺なく漂う人生が描かれている。

大阪の街が舞台だが、いわゆる大阪らしい大阪ではなく、くたびれた都市としての大阪であり、それは日本全体を映す鏡でもある。

たしかなものを心に持って生きられる人は少ない。実名の個を描くことを避けた淡々とした筆が、都市の日常風景を鮮やかに浮かび上がらせる。

表題作も併録の「背中の月」もセンチメンタルな雰囲気が強いが、現実は滑稽で、ここまでセンチメンタルに徹することは出来ない。

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