浄瑠璃を読もう


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橋本治「浄瑠璃を読もう」

浄瑠璃の代表作を読み解く。

歴史上の出来事を題材に、というよりも自由に加筆・改変が可能なパーツとして、好き勝手に物語を組み立てるという作劇法は、現代にも通じる日本の歴史観、物語観かも。

「歴史は、江戸時代という現在が抱えているドラマの種を植えつけるための土台になるだけなのだ」

銀の匙

中勘助「銀の匙」

明治生まれの著者が子供時代を綴った自伝的小説。友人との出会い。別れ。自分が「びりっこけ」だと気づいた痛み。日清戦争や修身の授業で感じた周囲とのずれ。教師への反発。とてもシンプルな文章ながら、前半から後半へと目線の高さが自然に変わっていって、著者自身がどこまで意識したのか分からないが、極めて巧みな印象も受ける。子供の目線で文章を書くのは難しい。これを二十代で書いた感性は相当なもの。どのページを読んでも、はっとさせられる。

抱擁家族

小島信夫「抱擁家族」

アメリカ人の青年と不義を犯した妻。少しずつ崩れていく家庭。既に色々な読み解き方をされてきた作品で、主人公と妻の態度を通じて日本を描いたもの、あるいはアメリカ的なものとの出会いによる価値観の崩壊……というのが定番だが、今読むとシンプルに、他者と関わることの得体のしれなさを描いた作品として心に残る。

異質なものの混入で家族が壊れたのではなく、既にこの家族は壊れている。あるいは人間関係というものは自壊する構造を持っていて、そこに異質なものが入ってくる様子を喜劇として描いている。ぎこちない文章がかえって気持ち悪さを出している。

曾根崎心中・冥途の飛脚ほか

近松門左衛門「曾根崎心中・冥途の飛脚 他五篇」

掛詞などを多用した浄瑠璃の特殊な文体は、慣れない身には意味を掴みづらいが、流れるような詞の響きは現代の文学には存在しないもの。遊女に入れ上げて心中……なんて、しょうもない話だが、それでも最後の道行で泣けてしまう美しさがある。
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おかしな二人

ニール・サイモン「おかしな二人」

妻と別れただらしない男と、几帳面すぎる故に結婚生活が破綻した男。バツイチの男同士で始まった同居生活。二人の関係は次第に夫婦のようになっていき、やがてその“結婚生活”も再び破綻する。

ほぼ半世紀前の作品で、今となってはありきたりに思えるような設定だけど、登場人物がいきいきと動くさまは似たような作品を寄せ付けない。コメディのひとつの完成形と思えるテンポの良さ。

わが町

ソーントン・ワイルダー「わが町」

ありふれた人生。いつかこの世を去り、次第に人々の記憶からも消えていく。生きることの永遠不滅な部分はどこにあるのだろう。平凡な町の、平凡な人々の、平凡な日々。

“舞台監督”の語りを挟むことで読み手=観客の視点を物語から常に引いた場所に位置させ、ありふれた内容から普遍的なものを描く。普遍化ということの見本のような作品。物語そのものには何も特別さがないため、心に残ったものを言葉で掴むのが難しい。

世界の食べもの 食の文化地理

石毛直道「世界の食べもの 食の文化地理」

とても面白いけど、アジア、オセアニア、北アフリカ以外の地域についてはほとんど触れられていないのがちょっと残念。取り上げられている地域については丁寧で読み応えがあるだけに、タイトルに相応しい完全版が読みたい。

馴染みがある中国料理も韓国料理もよく考えたらイメージどまりで、食文化としては実際には知らないことが多いと痛感。

マシアス・ギリの失脚

池澤夏樹「マシアス・ギリの失脚」

物語の筋は既にタイトルに示されている。神話も含めて一つの世界を作り上げる試み。

著者自身が「百年の孤独」のようなものを書きたかったと別の場所で書いていたが、「族長の秋」「予告された殺人の記録」を思わせる部分もある。ただ全体としては、ガルシア・マルケスのようなものを書こうとして、結果的に辿り着いたのは別の物という印象が強い。池澤夏樹の思想、世界観がはっきりと示されていて、日本を“宗主国”とする架空の島国を通じて、日本を描いた作品とも言える。

カンガルー・ノート

安部公房「カンガルー・ノート」

かいわれ大根が脛に生えてきた男の地獄巡り。脈絡の無い、物語の飛翔の仕方が夢のよう。ただ意味不明なだけでなく、ちゃんと夢の論理のようにストーリーとスピード感があるのが凡百の前衛小説とは決定的に違う。

高校生のころに読んだ時にはなんとなく面白いという印象しか残らなかったが、今回はあまりに濃厚な死の雰囲気に胸が詰まった。病床の安部公房の夢が駆け巡った“枯野”なのだろう。
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方舟さくら丸

安部公房「方舟さくら丸」

久しぶりに再読。

採石場跡に築いた巨大な地下シェルターで引きこもりのように暮らし、その“方舟”で滅亡後の世界を生き延びる仲間を探す男。わずかに湿り気のあるような、不快さを帯びた文章。人間の残忍さ、薄情さ、不安定さ、論理的であることの醜悪さ、現世の気持ち悪さを偽悪的にならずに書き得た希有な作家だったと改めて感じる。
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