中華料理の文化史

張競「中華料理の文化史」

文化、風土と切っても切り離せない「食」だが、その歴史は意外なほど浅い。古来、東西南北の民族が交錯し、支配層も入れ替わってきた中国では食習慣の変化も大きかった。

今や脂っこいイメージのある中華料理だが、かつては日本的な油を使わない料理も多く、魚や野菜の生食も珍しくなかったという。犬肉の忌避や、豚肉と羊肉の地位の逆転、箸の縦置きが遊牧民の王朝に端を発することなど、著者の仮説は説得力がある。

「伝統」という言葉に惑わされ、文化はともすれば不変なものと思いがちだが、実際はダイナミックに変化してきた。そのことが食に焦点をあてるとよく分かる。

フカヒレは明朝末から。麻婆豆腐や北京ダックも新しい食べ物。中華料理に限らず、イタリア料理のトマトも、韓国料理の唐辛子も150年程度の歴史にすぎない。どうあるか、ではなく、どう変化してきたかが文化の本質だが、一方で、その変化を忘れることが「文化」と広く認められる条件でもあるのだろう。

コメントを残す