幼な子の聖戦/天空の絵描きたち/百の夜は跳ねて

木村友祐「幼な子の聖戦」

田舎町の選挙を巡る騒動。セコい大人たちの思惑が入り乱れ、その中で追い詰められていく「おれ」。幼い、でもだからこそある意味で大人くさくもある主人公の造形が読み手を引き込む。そのぶん、狂気と暴力の結末に、無理やり物語の幕を引いたような物足りなさが残った。

併録の「天空の絵描きたち」は、ビルのガラス拭きたちの人間模様を描いたストレートな人間ドラマ。これまで単行本に収録されなかったのが不思議な傑作。ドラマ化、映画化されれば、映像でも映えそう。

“幼な子の聖戦/天空の絵描きたち/百の夜は跳ねて” の続きを読む

アンブレイカブル

柳広司「アンブレイカブル」

治安維持法を巡る連作短編集。

「雲雀」「叛徒」「虐殺」「矜恃」の4編で、それぞれ、プロレタリア文学の旗手・小林多喜二、反戦川柳作家・鶴彬、「横浜事件」で弾圧された言論誌の編集者ら、哲学者・三木清を物語の中心に据えている。スパイ小説「ジョーカー・ゲーム」の著者らしく、罪を仕立て上げようとする官憲と、表現者の息詰まる心理戦が描かれる。
“アンブレイカブル” の続きを読む

三行で撃つ 〈善く、生きる〉ための文章塾

近藤康太郎「三行で撃つ 〈善く、生きる〉ための文章塾」

大変有用な本である。朝日新聞の名文記者による文章指南書。名高い本多勝一「日本語の作文技術」とともに全ライター志望者必携。文章力の向上に即効性がある一冊。ただ、読みながら「良い文章」とは何だろうか、そんなものあるのだろうか、ということを(自分が気の利いた文章を書けないというやっかみ半分で)考えた。
“三行で撃つ 〈善く、生きる〉ための文章塾” の続きを読む

○○○○○○○○殺人事件

早坂吝「○○○○○○○○殺人事件」

タイトルの伏せ字も読者への挑戦。さまざまな趣向を懲らしたミステリー。

南の島でのオフ会で殺人事件が起こる。クローズドサークルもののど真ん中のシチュエーションだが、後半で謎が明らかになるにつれて、突っ込みどころがどんどん湧いてくる。核となるトリックにも苦笑い。でも、この馬鹿馬鹿しさは嫌いじゃない。

<以下ややネタバレ>
“○○○○○○○○殺人事件” の続きを読む

スマホ脳

アンデシュ・ハンセン「スマホ脳」

スマートフォンは社会を変えただけでなく、人間をも変質させるかもしれない。

テレビやゲームに加え、そもそも印刷された本ですら、登場した当時は警戒された。しかし、スマホをはじめとする21世紀のデジタル端末の生活への浸透具合は、過去の様々なメディアとは比較にならない。
“スマホ脳” の続きを読む

千の扉

柴崎友香「千の扉」

ふとしたことから、高齢化が進む団地で夫と暮らし始めた39歳の女性の日常を綴る。特別なことは何も起こらない。特別な人間も出てこない。人探しという物語の軸はあるものの、そこに劇的な展開はない。

著者の筆は過去と現在を行き来しながら、団地とそこで暮らした人々の記憶を浮かび上がらせる。ひと言声をかわしただけの人物にも、すれ違っただけの人にも、人生があり物語がある。
“千の扉” の続きを読む