信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来

斉藤賢爾「信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来」

ブロックチェーンの技術がもたらす社会経済の未来像。それはデジタルマネーの普及や、法定通貨が仮想通貨に置き換わるという単純な話ではない。著者は貨幣経済が衰退し、新しい形の信用経済が世界を覆っていくだろうと予見する。その際、消費者と生産者の区別はなくなり、人工知能の発達、シェアリングエコノミーの普及と相まって、「貨幣」「専門分化」「国家」は三つ巴で存在感を低下させていくという。
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異国トーキョー漂流記

高野秀行「異国トーキョー漂流記」

コンゴで幻獣を探し、東南アジアのアヘン栽培村に住み込み、無政府状態のソマリアを旅する。規格外の旅を軽やかな筆で記してきた高野秀行が、日本で知り合った異国からの友人との思い出を綴ったエッセイ集。

BUTOH(舞踏)に憧れ、自分探しの果てに日本にたどり着いたフランス人から、出稼ぎのペルー人、故国を追われたイラク人まで。登場する人々それぞれのエピソードを通じて、東京はトーキョーに姿を変え、日本の生きづらさも、生きやすさも、改めて浮かび上がる。体当たりのルポとは違う味わいのある“世話物”の一冊。
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もぎりよ今夜も有難う

片桐はいり「もぎりよ今夜も有難う」

映画というより映画館にまつわるエッセイ集。銀幕に憧れて育ち、銀座文化劇場(現シネスイッチ銀座)でもぎりのアルバイトを7年間していた著者の映画愛と映画館愛にあふれた一冊。もぎり時代の思い出を交えつつ、旅先で映画館を訪ねた際のエピソードなどが軽妙な文章で綴られる。
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彼の娘

飴屋法水「彼の娘」

飴屋法水は1961年生まれ。唐十郎の状況劇場を経て劇団グランギニョルを旗揚げし、その後、現代美術の領域に移行して先鋭的な表現を次々と打ち出してきた。95年、珍獣を扱うペットショップを開き、突如表現の場から身を引いたが、近年再び活動を再開。2013年に福島県いわき市の高校生と作り上げた「ブルーシート」は岸田國士戯曲賞を受賞した。

「彼の娘」の“彼”は著者の飴屋法水自身で、“娘”は彼が45歳の時に授かった“くんちゃん”のこと。

大切なもの、大切な人は誰にでもあるが、それは主観的で個人的なものでしかない。著者の思想の根本にあるのが、どんな命も究極的には等価であるということ。娘との日々を書いた喜びに満ちた私小説でありながら、その筆は常に客観的に彼と彼女の関係を綴っていく。
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夏の砦

辻邦生「夏の砦」

辻邦生の初期の長編。中世のタピスリに惹かれ、北欧で染織工芸を学ぶ支倉冬子の魂の遍歴を、彼女が失踪する前に残した膨大な手記と手紙から浮かび上がらせる。

知人男性の視点を通して一筋の物語になってはいるが、おそらくこの小説は、どこか一部分を切り出しても成立するだろう。著者自身の死生観や芸術論が、作品の隅々にまで刻み込まれている。
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息子と狩猟に

服部文祥「息子と狩猟に」

登山家で猟師でもある著者の初の小説。命を巡る普遍的な問いを突きつけてくる表題作と、高峰での極限状態を描いた「K2」の2編を収録。

小学6年生の息子を連れて鹿狩りに来た週末ハンターが、死体を埋めに来た詐欺グループの男と遭遇する。男は息子を人質に取り、自分の手元には猟銃がある。獣の命を奪うのが許されるなら、なぜ殺人犯の命を取ることは許されないのか。

個人的にハンターの最後の選択には共感しないが、それでも自分ならどうするかという問いからは逃げられない。読み手を物語に巻き込み、当時者にしてしまう力を持った問題作。
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しあわせの理由

グレッグ・イーガン「しあわせの理由」

「ディアスポラ」に続いて、グレッグ・イーガンをもう一冊。

表題作を含む9編を収録した日本オリジナルの短編集。「ディアスポラ」は物理学や宇宙論の知識が無いと理解できない描写も多かったが、こちらは特定のアイデアや疑問をもとに発展させた作品が中心で、SFになじみのない読者でも取っつきやすい一冊となっている。
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シラノ・ド・ベルジュラック (光文社古典新訳文庫)

ロスタン「シラノ・ド・ベルジュラック」
渡辺守章訳 (光文社古典新訳文庫)

フランス演劇の代表作の一つで、映画、ミュージカルから翻案まで数多くの派生作品を生んだ傑作。詩人で哲学者、剣士と多才だが、容姿だけに恵まれなかった心優しき主人公シラノ・ド・ベルジュラックのキャラクターがとにかく魅力的。
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