その農地、私が買います 高橋さん家の次女の乱

高橋久美子「その農地、私が買います 高橋さん家の次女の乱」

今や地方の土地は負の資産になりつつある。貸駐車場に転用できるような土地はまだいいとして、中山間地の農地や山林などは放置するわけにもいかず、かといって買い手もいない。

父が実家の田んぼを太陽光パネルの業者に売る――。母からの電話でそのことを知った著者は、自ら土地を買い取り、田畑として維持することを決意する。その後の試行錯誤の日々をまとめたエッセー集だが、これが滅法面白い。
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食べ歩くインド

小林真樹「食べ歩くインド」北・東編 南・西編

 

すごい本である。インドの多様な食を紹介――といっても、研究者による食文化論ではない。タイトル通り、全インドを食べ歩くためのグルメガイド。かなり分かりやすく書かれているが、それでもニハーリーやクルチャーなどなじみのない言葉が次々と出てきて、文章を読みながら、異文化の中を旅している気分になる。「北・東編」「南・西編」の2分冊でボリュームたっぷり。旅行人の情報量の多いガイドブックを開いた時の興奮を思い出した。
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辺境メシ ヤバそうだから食べてみた

高野秀行「辺境メシ ヤバそうだから食べてみた」

食に関する名著はいろいろあるが、そこに並ぶ(と同時に異彩を放つ)一冊と言ってもいいだろう。

ゴリラにムカデ、タランチュラと、食材もさまざまなら、ヤギの胃液のスープや、豚の生き血の和え物、ヒキガエルをミキサーにかけたジュースなど調理法も多種多様。何をどう食べるかには人間の叡智、というのは大げさかもしれないが、人間の積み重ねてきた歴史が詰まっている。登場する料理の珍しさに目が行くが、食感や風味など、丁寧かつ的確(か確かめようがないけど)な表現で、なんとなく食べた気にさせる筆力がみごと。
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日本の中のインド亜大陸食紀行

小林真樹「日本の中のインド亜大陸食紀行」

インドの食文化について書かれた紀行本やレシピ本は珍しくないが、本書のテーマは“日本の中のインド食文化”。アジア食器などの輸入販売を手がけている著者は、各地のインド料理店や食材店を巡り、異国に根付き、変化していく食文化を追う。
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世界のおばあちゃん料理

ガブリエーレ・ガリンベルティ「世界のおばあちゃん料理」

本屋で思わず買ってしまった一冊。邦題はストレートなレシピ本という感じだけど、原題は“In Her Kitchen”。著者はイタリアの写真家で、その名の通り、世界のおばあちゃんのキッチンの写真に、得意料理のレシピと短いライフストーリーを付したもの。欧米からアジア、アフリカ、太平洋の島国まで50カ国58人。家庭料理だけあって、ほとんどは塩やオリーブオイルなどシンプルな味付けで日本でも簡単に再現可能なのがうれしい(一部、ムースやイグアナ、乾燥芋虫など、手に入らない食材も混ざっているけど)。それぞれの料理におばあちゃんの生き方や家族との関係が滲み、土地の暮らしが垣間見えて引き込まれる。

最後の晩餐

開高健「最後の晩餐」

食談。開高健はとにかく文章が優れている。くどいようで軽妙自在。とらえどころの無い脱線をする豊かな知識。「女と食が書けたら一人前」という文壇の格言に対し、戦争などの極限状態を扱った作品以外で食がまとも描かれたことがないと鋭い指摘をしつつ、開高の筆は「筆舌に尽くせない」に逃げない。高級料理から唐代の喫人まで果敢に遡上にあげていく。所々に挟まれる安岡章太郎や遠藤周作、吉行淳之介といった作家仲間の馬鹿話が面白い。

海を渡った故郷の味 Flavours Without Borders

難民支援協会「海を渡った故郷の味 Flavours Without Borders」

思わず買ってしまったけど、使いでがありそうなレシピ集。日本で暮らす難民自身の手によるもので、スーパー等で手に入る食材で作りやすいように工夫されているのがうれしい。

エチオピアのドロワットやインジェラを始め、ウガンダやクルド料理など、もう一度食べたかったけど、ネットで探しても現実的なレシピが見つからなかった料理に手を出せそう。しかし日本はスパイス類が高い……

世界の食べもの 食の文化地理

石毛直道「世界の食べもの 食の文化地理」

とても面白いけど、アジア、オセアニア、北アフリカ以外の地域についてはほとんど触れられていないのがちょっと残念。取り上げられている地域については丁寧で読み応えがあるだけに、タイトルに相応しい完全版が読みたい。

馴染みがある中国料理も韓国料理もよく考えたらイメージどまりで、食文化としては実際には知らないことが多いと痛感。