治安維持法を巡る連作短編集。
「雲雀」「叛徒」「虐殺」「矜恃」の4編で、それぞれ、プロレタリア文学の旗手・小林多喜二、反戦川柳作家・鶴彬、「横浜事件」で弾圧された言論誌の編集者ら、哲学者・三木清を物語の中心に据えている。スパイ小説「ジョーカー・ゲーム」の著者らしく、罪を仕立て上げようとする官憲と、表現者の息詰まる心理戦が描かれる。
“アンブレイカブル” の続きを読む
読んだ本の記録。
治安維持法を巡る連作短編集。
「雲雀」「叛徒」「虐殺」「矜恃」の4編で、それぞれ、プロレタリア文学の旗手・小林多喜二、反戦川柳作家・鶴彬、「横浜事件」で弾圧された言論誌の編集者ら、哲学者・三木清を物語の中心に据えている。スパイ小説「ジョーカー・ゲーム」の著者らしく、罪を仕立て上げようとする官憲と、表現者の息詰まる心理戦が描かれる。
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父について綴ったエッセイ。趣味や日常生活については多くの文章がある作家だが、家族や生い立ちについては断片的な事柄しか書いてこなかっただけに、創作の背景が分かる貴重な資料でもある。
“猫を棄てる 父親について語るとき” の続きを読む
「夜更けに火が燃えつき、骨を拾うにもくらがりで見当つかず、そのまま穴のかたわらに横たわり、周囲はおびただしい蛍のむれ、だがもう清太は手にとることもせず、これやったら節子さびしないやろ、蛍がついてるもんなあ、上ったり下ったりついと横へ走ったり、もうじき蛍もおらんようになるけど、蛍と一緒に天国へいき。」
自伝的小説「ひとでなし」によると、著者は「火垂るの墓」を〆切に追われながら書き上げて以来、一度も読み返していないという。アニメ映画も本編は一度も見ておらず、宣伝用の抜粋で涙を流し、戦後唯一泣いたのがその時だったと記している。
“アメリカひじき・火垂るの墓” の続きを読む
第129回(2003年上半期)の直木賞受賞作。ある家族の物語が章ごとに視点を変えて綴られる。
道ならぬ兄妹の恋の物語は、家族一人一人の人生が語られていくうちに、歴史と記憶が織りなす重層的な物語となる。
“星々の舟” の続きを読む
陸軍の最初の特攻隊「万朶隊」の隊員で、9回出撃し、通常攻撃や機体の故障などで9回とも生きて帰ってきた佐々木友次氏の記録。亡くなる2カ月前までの貴重な証言が収められている。
“不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか” の続きを読む
戦時中に九州帝大で行われた米兵捕虜に対する生体解剖事件を題材とした作品。著者の初期の代表作の一つで、手術に立ち会った医学生や看護師のそれまでの人生を描きながら、日本人における罪の意識のあり方を浮かび上がらせる。
“海と毒薬” の続きを読む
堀川惠子「戦禍に生きた演劇人たち 演出家・八田元夫と『桜隊』の悲劇」
広島で被爆し、全滅した劇団「桜隊」は、井上ひさしの「紙屋町さくらホテル」や新藤兼人監督の映画で取り上げられてきたが、いずれも原爆の悲劇としての側面が強く、なぜ彼らが広島にいたのか、その背景にある戦前・戦中の苛烈な思想統制、演劇人への弾圧については資料の不足からあまり描かれてこなかった。
著者は、桜隊の演出を手がけていた八田元夫の膨大なメモや未発表原稿を発掘し、彼の生涯を縦軸に、戦前から戦後に至る表現者たちの受難の歴史を現代によみがえらせた。
“戦禍に生きた演劇人たち 演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇” の続きを読む
石村博子「たった独りの引き揚げ隊 10歳の少年、満州1000キロを征く」
世界大会で3度優勝し、公式戦無敗の41連勝、“サンボの神様”とまで言われたビクトル古賀(古賀正一)の少年時代の物語。満州から一人で引き揚げてきた少年の回想であると同時に、コサックの末裔の物語でもある。
「俺が人生で輝いていたのは、10歳、11歳くらいまでだったんだよ。(中略)俺のことを書きたいって、何人もの人が来たよ。でも格闘家ビクトルの話だから、みんな断った。あなたを受け入れたのは、少年ビクトルを書きたいっていったからさ」
“たった独りの引き揚げ隊 10歳の少年、満州1000キロを征く” の続きを読む
山室信一「キメラ―満洲国の肖像」
仮にも国として作られながら、崩壊時に多くの資料が焼き払われたこともあり、満洲国の実像や全体像はなかなか摑みづらい。漠然としたイメージや、あるいは引き揚げ者の証言を通じて「満洲」は語られてきた。
法制思想史が専門の著者は関東軍、日本、中国のつぎはぎで作られた“キメラ”として満洲の通史を描く。そこでは、政治の実験場、軍の裏金作りの場、「五族協和」を掲げながら実態は差別に満ちた社会としての満洲の姿が明らかになる。
“キメラ―満洲国の肖像” の続きを読む
澤地久枝「14歳〈フォーティーン〉 満州開拓村からの帰還」
ノンフィクションの大家による自身の戦争体験記。満州に暮らした女学校時代の回想から、引き揚げまで。思春期の記憶を頼りに書いていて、同様の体験記に比べて決して濃い内容ではないが、等身大の記憶として受け止められる。
“14歳〈フォーティーン〉 満州開拓村からの帰還” の続きを読む