希望の国のエクソダス

村上龍「希望の国のエクソダス」

「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」

景気の停滞が続き、国際金融資本の食い物にされる日本。集団不登校となった中学生たちがインターネットを駆使したビジネスを始め、国家から独立した集団に育っていく。
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資本主義の終わりか、人間の終焉か? 未来への大分岐

マイケル・ハート、マルクス・ガブリエル、ポール・メイソン、斎藤幸平編「未来への大分岐」

富の偏在や利潤率の低下などで資本主義は限界を迎えつつあるが、人類はまだ次の社会のあり方を見出せていない。同時に、20世紀を通じて育まれた相対主義の弊害を克服する道筋も見つけられていない。

マイケル・ハート、マルクス・ガブリエル、ポール・メイソンの3人と、カール・マルクスの再解釈で高い評価を受けた気鋭の研究者の対話集。討論と言うより、それぞれの思想、問題意識をかみ砕いて説明するような内容で、議論に入りやすい。
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21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考

ユヴァル・ノア・ハラリ「21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考」

「自由」「宗教」「戦争」など、21のテーマをめぐる考察。本書で最も(というか唯一)印象に残ったのが、大衆の存在意義がなくなる時代が迫っているという指摘。「存在意義の喪失と戦うのは、搾取と戦うよりもはるかに難しい」と著者は書く。
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ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

ブレイディみかこ「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」

英国の公立学校に通う息子との日々をつづったエッセイ。

著者は英国の“最底辺保育所”で働いた経験を持つライター。イエローでホワイトでもある息子は、落ち着いたカトリックの小学校に通っていたが、あえてさまざまな社会階層の子が集まる“元底辺中学校”への進学を選ぶ。その学校生活を通じて、英国社会のさまざまな問題が浮き彫りになる。同時に、教育のおいて本当に必要なことは何かを考えさせられる。
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ケーキの切れない非行少年たち

宮口幸治「ケーキの切れない非行少年たち」

少し遅れて、話題の新書。著者は医療少年院などで働いてきた児童精神科医。タイトルや帯にあるように、丸いケーキを均等に切り分けられない子供たちがいるという事実が目を引くが、「最近の子供は学力が低下している」というようなありふれた内容ではない。著者は教育の本質的なあり方を問う。
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宮本常一を旅する

木村哲也「宮本常一を旅する」

宮本常一の足跡を訪ねる旅。ただの紀行文ではなく、宮本民俗学を補い、現代につなぐ優れた仕事。

宮本は民俗学者であると同時に稀代の旅人でもあり、優れた農業・地域振興指導者の顔も持っていた。宮本が何を記録し、同時にそれぞれの土地に何を残していったのか。著者は宮本の膨大な資料を読み込んだ上で各地を回り、宮本が見たもの、見残したものを探っていく。
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「仲野教授の そろそろ大阪の話をしよう」

仲野徹「仲野教授の そろそろ大阪の話をしよう」

仲野徹・大阪大教授と大阪にまつわる専門家らの対談集。テーマは歴史、言葉、食から、音楽、落語、花街、鉄道など多岐にわたる。気楽な読み物であると同時に、内容はディープ。「面白い対談」の見本のような一冊。
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未来の年表

河合雅司「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること」
「未来の年表2 人口減少日本であなたに起きること」

  

高齢化、人口減少が進む日本社会の今後の姿を、統計を元に時系列で予測する。

2024年には3人に1人が65歳以上となり、日本は本格的に高齢者の国になる。生産年齢人口は2015~2040年の25年間で約1750万人減少し、労働力不足も深刻化していく。2033年には全国の住宅の3戸に1戸が空き家になり、2040年には自治体の半数が消滅の危機に。都市部にいるとまだ危機感が薄いが、2025年には東京でも人口が減少し始め、2045年には都民の3人に1人が高齢者となる。輸血用血液や火葬場の不足も深刻化する。

現在1億2600万人いる総人口は2065年に8800万人まで減り、2.5人に1人が高齢者となる。そう言われてもこれまでは遠い未来の話のような気がしていたが、今の小学生は2065年時点でまだ50代で、今年生まれた子は46歳。彼らは限界集落化していく社会の中を生きなくてはならない。
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日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学

小熊英二「日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学」

正社員が減り、非正規労働者が増えたと言われる。だが、実際の統計では正社員の数は減っていない。総務省の労働力調査によれば、正規従業員の数は1984年に3333万人、2018年には3476万人。一方で非正規労働者は1984年の604万から、2018年に2120万と急増している。著者の指摘によれば、この30年あまりで実際に減ったのは正社員ではなく自営業や家族経営の零細企業で、雇用形態の変化というより、もっと大きな社会の変化が進んでいる。

日本社会がどのような歴史的経緯で今のような形になったのかを、終身雇用、年功賃金、新卒一括採用、定期人事異動、大部屋職場など、主に雇用形態の成立過程から説き明かす。働き方の仕組みは、社会保障や教育、個人のアイデンティティも規定しており、まさに日本社会のしくみといえる。高校生、大学一回生くらいの教科書にしたい一冊。

オーラル・ヒストリーである「生きて帰ってきた男」とあわせて読むと、戦後日本社会の実相がよく分かる。
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大坂堂島米市場 江戸幕府vs市場経済

高槻泰郎「大坂堂島米市場 江戸幕府vs市場経済」

江戸時代の堂島米市場は世界初の先物取引市場と言われることもある。米を証券化した米切手が在庫米以上に発行され、市場を形成していた。やがて売り買いの約束だけで相場変動の差金をやりとりする「帳合米商い」や時間外取引が発達し、買いたい時に買い、売りたい時に売ることのできる流動性の高い市場が完成した。現物をやりとりすることを当初から想定してない帳合米商いは、商品価格の変動リスクをヘッジするための先物取引より、むしろ現代の指数取引に近い先鋭的な仕組みだった。
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