「右翼」の戦後史

安田浩一『「右翼」の戦後史』

日本の政治は、左右や保守、リベラルという軸では説明が難しい。特に右翼の思想は戦前と戦後で大きく変わり、戦後史の中でも何度も立ち位置を変えている。

国粋主義者であるはずの右翼がなぜ親米を掲げるのか。反政府の民族主義者として民族差別を嫌悪し、政治の腐敗に怒ったはずの右翼が、なぜ政権の応援団になり、少数派を抑圧する存在になってしまったのか。

近代以降の日本の右翼の歩みを、当事者への取材を重ねてまとめた労作。著者は伝統的な右翼思想には理解を示す一方、ネット右翼をはじめとする差別主義者を厳しく批判する。
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犬は「びよ」と鳴いていた~日本語は擬音語・擬態語が面白い~

山口仲美『犬は「びよ」と鳴いていた~日本語は擬音語・擬態語が面白い~』

わんわん、びりびり、しとしと、つるり。擬音語・擬態語のあり方は、世界の見え方、聞こえ方を司ると言っても過言ではない。

日本語の擬音語・擬態語の数は他の言語と比べてもかなり多いとされる。日本語学者の著者は擬音語・擬態語の移り変わりから、日本語と日本社会の変化をひもといていく。
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縮小ニッポンの衝撃

NHKスペシャル取材班「縮小ニッポンの衝撃」

2017年に発表された推計では、今後半世紀で日本の人口は約3900万人減り、2065年に8808万人になるという。2025年には5人に1人が75歳以上という超高齢社会に突入し、同時に東京でも人口が減少に転じる。2010年時点で人が住んでいた地点の約2割が2050年までに無住化するという推計もあり、日本社会は確実に縮小していく。

本書は2016年にNHKスペシャルで放送された内容を書籍化したもの。冒頭で、地方の過疎の影に隠れがちな東京の課題が明らかにされている。
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日本を降りる若者たち

下川裕治「日本を降りる若者たち」

日本社会は必死にその上に載り続けることを個人に強いる。しがみつくのをやめれば外に落ちてしまう。どこの社会にもそうした部分はあるものだろうけど、日本では一度失敗すると元の場所に戻りにくい。人目を気にせずに生きられる場所が少ない、あるいは見つけにくい。

バックパック旅行を描いてきた著者が、日本社会から降りて東南アジアで暮らすようになった人々の姿を記録したルポ。日本での短期労働で資金を稼ぎ、1年の大半をバンコクで何もせずだらだらと「外こもり」の生活を続ける人々の話が中心だが、積極的にタイで働き、生きることを選んだ人も登場する。
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創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史

輪島裕介『創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史』

「演歌」はいつ成立したのか。

ベネディクト・アンダーソンの「想像の共同体」の冒頭には、客観的には新しい現象の「国民」が、ナショナリストの主観的な目には古くからある存在に見えることが書かれている。ナショナリズムに限らず、「伝統」の顔をして現れる多くの文化・風俗は実際には新しいものである。著者は日本の大衆音楽史を丁寧にたどり、演歌というジャンルが60年代後半のカウンターカルチャーと商業主義の中で成立した過程を明らかにする。
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花柳界の記憶 芸者論

岩下尚史「花柳界の記憶 芸者論」

芸者。日本文化のアイコンの一つとされながら、その実態はよく知られていない。遊女と混同されることもあるが、吉原などの廓において職掌は明確に分けられ、芸者の売色は固く禁じられてきた。新橋演舞場に勤め、東都の名妓に長年接してきた著者による本書は、古代の巫女にまで遡って芸者と遊女の本質を探る優れた日本文化論となっている。
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津波の霊たち 3・11 死と生の物語

リチャード・ロイド・パリー「津波の霊たち 3・11 死と生の物語」

英「ザ・タイムズ」紙の東京支局長による被災地のルポルタージュ。6年にわたる被災地取材の記録であり、津波被害、中でも児童の多くが犠牲になった大川小の遺族の話を中心に据えつつ、共同体や死を巡る日本人の心性をも掘り下げていく。東日本大震災に関する最も優れた記録の一つであると同時に、日本人論、日本文化論としても白眉の内容。
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入門 東南アジア近現代史

岩崎育夫「入門 東南アジア近現代史」

1年半ほど前、バリン会談を再現したマーク・テのパフォーマンスを見て、マレーシア、ひいては東南アジアの現代史を全然知らない自分に気づき愕然とした。その後、手頃な概説書を探したが、戦後史に関して新書や文庫で気軽に読める本がほとんどないことを知り、重ねて驚いた。言うまでも無く、東南アジアは日本との結びつきも強く、在留邦人や旅行者の数も多い。比較的身近な地域であるにも拘わらず、経済的な面を除いてはあまり関心を寄せられてこなかった。
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