津波の霊たち 3・11 死と生の物語

リチャード・ロイド・パリー「津波の霊たち 3・11 死と生の物語」

英「ザ・タイムズ」紙の東京支局長による被災地のルポルタージュ。6年にわたる被災地取材の記録であり、津波被害、中でも児童の多くが犠牲になった大川小の遺族の話を中心に据えつつ、共同体や死を巡る日本人の心性をも掘り下げていく。東日本大震災に関する最も優れた記録の一つであると同時に、日本人論、日本文化論としても白眉の内容。
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入門 東南アジア近現代史

岩崎育夫「入門 東南アジア近現代史」

1年半ほど前、バリン会談を再現したマーク・テのパフォーマンスを見て、マレーシア、ひいては東南アジアの現代史を全然知らない自分に気づき愕然とした。その後、手頃な概説書を探したが、戦後史に関して新書や文庫で気軽に読める本がほとんどないことを知り、重ねて驚いた。言うまでも無く、東南アジアは日本との結びつきも強く、在留邦人や旅行者の数も多い。比較的身近な地域であるにも拘わらず、経済的な面を除いてはあまり関心を寄せられてこなかった。
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完全版 猪飼野少年愚連隊 奴らが哭くまえに

黄民基「完全版 猪飼野少年愚連隊 奴らが哭くまえに」

生野区から東成区にまたがる猪飼野地域は、現在も多くの在日コリアンが暮らす町だが、戦後間もない頃は愚連隊とヤクザが跋扈する一帯としても知られた。戦後大阪で一大勢力を築いた明友会は、その猪飼野で生まれた在日朝鮮人の愚連隊で、山口組との抗争に敗れて消滅した。

猪飼野で生まれ育った著者は、日夜喧嘩に明け暮れる仲間たちとともに少年期を過ごした。不良少年たちは、「三国人」と呼ばれた親たちの葛藤を目の当たりにしながら、愚連隊の兄貴分たちの後を追うように成長していく。やがて明友会が山口組に敗れ、社会が高度経済成長に湧くようになる頃、街の風景も変わっていく。
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わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か

平田オリザ「わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か」

著者は、学校教育の現場や就職活動で、漠然と「コミュニケーション能力」が求められる風潮に疑問を呈しつつ、わかりあえないことを前提とした対話の基礎体力を身につける重要性を説く。コミュニケーション論というよりは、教育論というべき内容。

多様化、細分化、国際化が進んだ社会で求められるのは、「バラバラな人間が、価値観はバラバラなままで、どうにかしてうまくやっていく」こと。そこでは、「合わせる」「察する」ことよりも、最低限の社交マナーとしての対話力が必要となる。
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「新しき村」の百年 〈愚者の園〉の真実

前田速夫『「新しき村」の百年 〈愚者の園〉の真実』

恥ずかしながら、「新しき村」が今も残っていることを最近まで知らなかった。

武者小路実篤の「新しき村」は、文化的で個人が尊重される理想の共同体を掲げ、1918年に宮崎県の山中に開かれた。共有財産・共同作業で生計を立て、余暇を学問や芸術などに使うことを目指した村は、運営が軌道に乗り始めたタイミングでダムに一部が沈むことになり、39年に埼玉県毛呂山町に移転。戦後もその取り組みは続き、今年で100周年を迎える。
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だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人

水谷竹秀「だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人」

バンコクにある日本企業のコールセンターで働く人々を取材したノンフィクション。

2000年代に入ってから、日本企業が人件費の節約のため、コールセンターをバンコクに移すケースが増えたという。そこで働くのは日本からタイに渡った30代、40代を中心とした男女。日本に居場所がなかったと語る彼らの半生を通じて、現代の日本社会の生きづらさが浮き彫りになる。
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信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来

斉藤賢爾「信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来」

ブロックチェーンの技術がもたらす社会経済の未来像。それはデジタルマネーの普及や、法定通貨が仮想通貨に置き換わるという単純な話ではない。著者は貨幣経済が衰退し、新しい形の信用経済が世界を覆っていくだろうと予見する。その際、消費者と生産者の区別はなくなり、人工知能の発達、シェアリングエコノミーの普及と相まって、「貨幣」「専門分化」「国家」は三つ巴で存在感を低下させていくという。
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ファミコンとその時代

上村雅之、細井浩一、中村彰憲「ファミコンとその時代」

ビデオゲームの誕生から、ファミコンの登場、流行まで。主著者の上村雅之氏はファミコンの開発者の一人であり、まさにテレビゲームの正史と呼べる一冊。社会、経済の変化を扱った読み物としても非常に読み応えがある。ファミコンの発売30周年を迎えた2013年の刊。ファミコン世代にとっては、自分たちの時代を客観視するためにも必読の一冊。
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断片的なものの社会学

岸政彦「断片的なものの社会学」

読書の喜びは、知らないことを知ることと、それ以上に、自分が感じていること――悲しみや苦しみも含めて――を他の誰かも感じていると知ることの救いの中にある。同じ考えでなくてもいい。自分以外の人も、自分と同じようにいろいろなことを感じ、考えている。それに気付くことが読書の最大の価値だと思う。

著者はライフヒストリーの聞き取りを重ねてきた社会学者。といってもここに書かれているのは、分析や仮説ではない。路上から水商売まで、さまざまな人生の断片との出会いの中で、著者自身が戸惑い、考えたことが柔らかな文体で綴られている。
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