まほろば

蓬莱竜太「まほろば」

第53回(2009年)岸田賞受賞作。

田舎の旧家を舞台とした女性6人の会話劇。“家”のため、娘に婿を取らせたい母、恋人と別れて帰ってきたアラフォーの長女、シングルマザーの次女、妊娠が分かったその娘、近所のませた少女、おおらかな祖母。男は外から聞こえる祭り囃子の声でしか登場しない。
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て/夫婦

岩井秀人「て/夫婦」

ハイバイの「て」を初めて観た時は衝撃を受けた。家族の複雑な感情も、過去のトラウマも、何気ない会話も、一旦舞台に上げてしまえば全てひっくるめて喜劇になるのだと知り、その視点はある種の救いにもなった。もちろん小説でも映画でも「家族」は定番の主題だが、生身の人間の演じる舞台で日常の中の愛憎を見せつけられることほど生々しいものはない。

「て」は祖母の死を巡る物語で、次男の視点と母の視点で同じ時間軸を二度繰り返す。その中で家族それぞれの抱える複雑な感情が浮き彫りになる。「夫婦」は家族に深い傷を負わせた父が死に、家族の過去が語られる。いずれも可笑しくも胸を締め付けられる作品。
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冒険王

平田オリザ「冒険王」

著者は16歳だった1979年、高校を休学(後に中退)して自転車で世界一周の旅に出た。イスタンブールの安宿でだらだらと喋り続けるバックパッカーたちの姿を描くこの作品には、その時の体験が反映されており、著者が自身の経験を直接題材とした唯一の戯曲でもある。1996年に初演された。
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SAVE THE CATの法則

ブレイク・スナイダー「SAVE THE CATの法則」

ハリウッドの脚本家による脚本術の本だが、優れた物語の構造分析としても読むことができ、脚本や小説だけでなく、プレゼンテーションや講演、論文執筆まで、幅広い分野のヒントになりそう。何より文章がユーモアに満ちていて、読み物としても非常に面白い。
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転校生

平田オリザ「転校生」

朝起きたら転校していることに気付き、それ以前の記憶は無くしてしまったという生徒が教室に入ってくる。劇中にも登場するカフカの作品を連想させるような不思議な展開だが、その謎を掘り下げていくわけではなく、生徒たちの日常会話がだらだらと続いていく。
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わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か

平田オリザ「わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か」

著者は、学校教育の現場や就職活動で、漠然と「コミュニケーション能力」が求められる風潮に疑問を呈しつつ、わかりあえないことを前提とした対話の基礎体力を身につける重要性を説く。コミュニケーション論というよりは、教育論というべき内容。

多様化、細分化、国際化が進んだ社会で求められるのは、「バラバラな人間が、価値観はバラバラなままで、どうにかしてうまくやっていく」こと。そこでは、「合わせる」「察する」ことよりも、最低限の社交マナーとしての対話力が必要となる。
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彼の娘

飴屋法水「彼の娘」

飴屋法水は1961年生まれ。唐十郎の状況劇場を経て劇団グランギニョルを旗揚げし、その後、現代美術の領域に移行して先鋭的な表現を次々と打ち出してきた。95年、珍獣を扱うペットショップを開き、突如表現の場から身を引いたが、近年再び活動を再開。2013年に福島県いわき市の高校生と作り上げた「ブルーシート」は岸田國士戯曲賞を受賞した。

「彼の娘」の“彼”は著者の飴屋法水自身で、“娘”は彼が45歳の時に授かった“くんちゃん”のこと。

大切なもの、大切な人は誰にでもあるが、それは主観的で個人的なものでしかない。著者の思想の根本にあるのが、どんな命も究極的には等価であるということ。娘との日々を書いた喜びに満ちた私小説でありながら、その筆は常に客観的に彼と彼女の関係を綴っていく。
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