南へ/さよならだけが人生か

平田オリザ戯曲集4「南へ/さよならだけが人生か」

舞台は日本を出て南へ向かう船の上。乗客と船員のとりとめのない会話が続く。乗客たちは日本を捨てていくようだが、その背景は説明されない。南に何があるのかも。船の上では、だらだらと弛緩した時間が流れる。会話にはユーモアが散りばめられているものの、そこに漂う空気はどこか暗い。

初演はバブルに沸いていた1990年。バブルの行き着く先の社会を想定し、そこから逃げ出す人々を描いたのだろう。

それから30年が経った今、バブルは遠い記憶となり、日本社会は静かに衰退していっている。せりふの間に滲む諦めの感覚。それが恐ろしいほどリアルに感じられる。

「さよならだけが人生か」は92年初演。雨で作業の止まった工事現場で、ひたすらたわいない会話が繰り広げられる。青年団流の人情喜劇。

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