朝鮮と日本に生きる――済州島から猪飼野へ

金時鐘「朝鮮と日本に生きる――済州島から猪飼野へ」

日本の戦後を象徴する詩人の自伝。

1929年に日本の植民地下の釜山で生まれた著者は、皇民化教育で日本語を学び、「皇国」の勝利を信じて育った。解放後に民族意識に目覚めたが、日本の詩歌に親しみを感じ、ハングルを満足に使いこなすことができない自分に深いコンプレックスを抱く。
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「右翼」の戦後史

安田浩一『「右翼」の戦後史』

日本の政治は、左右や保守、リベラルという軸では説明が難しい。特に右翼の思想は戦前と戦後で大きく変わり、戦後史の中でも何度も立ち位置を変えている。

国粋主義者であるはずの右翼がなぜ親米を掲げるのか。反政府の民族主義者として民族差別を嫌悪し、政治の腐敗に怒ったはずの右翼が、なぜ政権の応援団になり、少数派を抑圧する存在になってしまったのか。

近代以降の日本の右翼の歩みを、当事者への取材を重ねてまとめた労作。著者は伝統的な右翼思想には理解を示す一方、ネット右翼をはじめとする差別主義者を厳しく批判する。
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犬は「びよ」と鳴いていた~日本語は擬音語・擬態語が面白い~

山口仲美『犬は「びよ」と鳴いていた~日本語は擬音語・擬態語が面白い~』

わんわん、びりびり、しとしと、つるり。擬音語・擬態語のあり方は、世界の見え方、聞こえ方を司ると言っても過言ではない。

日本語の擬音語・擬態語の数は他の言語と比べてもかなり多いとされる。日本語学者の著者は擬音語・擬態語の移り変わりから、日本語と日本社会の変化をひもといていく。
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北方探検の英傑 近藤重蔵とその息子

久保田暁一「北方探検の英傑 近藤重蔵とその息子」

江戸時代後期、千島列島をはじめとする蝦夷地を探検し、北方の開拓・防備に大きな功績を残したものの、不遇の後半生を送った近藤重蔵。その息子で、殺人に手を染めてしまい、流刑先の八丈島で「八丈実記」という大部の地誌を記した近藤富蔵。数奇な運命を辿った父子の物語。
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辺境を歩いた人々

宮本常一「辺境を歩いた人々」

日本では、探検家といってもあまり具体的な名前が浮かばない人が多いかもしれない。小さな島国で、未踏の地、未知の地とはあまり縁がなかったようなイメージがあるが、実際には多くの探検家や旅行者が辺境を調査し、“国土”を切り開いてきた。

流刑先の八丈島で「八丈実記」という詳細な地誌を残した近藤富蔵。東北を歩き、民衆の生活誌を細かく記した菅江真澄。蝦夷地の内陸部を踏査した松浦武四郎。南西諸島と千島列島の調査に先鞭を付けた笹森儀助。4人の半生を中心に、辺境を歩いた先人の業績を語る。
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創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史

輪島裕介『創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史』

「演歌」はいつ成立したのか。

ベネディクト・アンダーソンの「想像の共同体」の冒頭には、客観的には新しい現象の「国民」が、ナショナリストの主観的な目には古くからある存在に見えることが書かれている。ナショナリズムに限らず、「伝統」の顔をして現れる多くの文化・風俗は実際には新しいものである。著者は日本の大衆音楽史を丁寧にたどり、演歌というジャンルが60年代後半のカウンターカルチャーと商業主義の中で成立した過程を明らかにする。
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花柳界の記憶 芸者論

岩下尚史「花柳界の記憶 芸者論」

芸者。日本文化のアイコンの一つとされながら、その実態はよく知られていない。遊女と混同されることもあるが、吉原などの廓において職掌は明確に分けられ、芸者の売色は固く禁じられてきた。新橋演舞場に勤め、東都の名妓に長年接してきた著者による本書は、古代の巫女にまで遡って芸者と遊女の本質を探る優れた日本文化論となっている。
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西南役伝説

石牟礼道子「西南役伝説」

西南戦争を体験した古老の話の聞き書き。「苦海浄土」と並ぶ著者の代表作とされながら、絶版で全集以外では手に入りにくかった作品だが、追悼か、大河ドラマ効果か、講談社文芸文庫から再刊された。ノンフィクションというよりは、巫女に喩えられることもある偉大な作家が語り直した文学作品といった方がふさわしい。
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入門 東南アジア近現代史

岩崎育夫「入門 東南アジア近現代史」

1年半ほど前、バリン会談を再現したマーク・テのパフォーマンスを見て、マレーシア、ひいては東南アジアの現代史を全然知らない自分に気づき愕然とした。その後、手頃な概説書を探したが、戦後史に関して新書や文庫で気軽に読める本がほとんどないことを知り、重ねて驚いた。言うまでも無く、東南アジアは日本との結びつきも強く、在留邦人や旅行者の数も多い。比較的身近な地域であるにも拘わらず、経済的な面を除いてはあまり関心を寄せられてこなかった。
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古事記 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集07

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集01
古事記

池澤夏樹編の日本文学全集。第1巻では編者自ら古事記の新訳に取り組んだ。

古事記に関しては、石川淳の「新釈古事記」が素晴らしく、流麗で格調高い文章と読みやすさを両立していて何度読んでもため息が出てしまう。ただ、かなり言葉や要素を補っているため、現代語訳というよりは石川淳の作品と呼んだ方が相応しい。

池澤夏樹は本文を加筆することは極力避け、ページ下部に膨大な注釈を付けた。このことによって、神や人の名前の列記と、物語に挿入された数々の歌が大半を占める原典の構成がよく分かるようになった。特に名前の列記について池澤訳はこだわりを見せ、改行などで非常に見やすく並べている。
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