異国トーキョー漂流記

高野秀行「異国トーキョー漂流記」

コンゴで幻獣を探し、東南アジアのアヘン栽培村に住み込み、無政府状態のソマリアを旅する。規格外の旅を軽やかな筆で記してきた高野秀行が、日本で知り合った異国からの友人との思い出を綴ったエッセイ集。

BUTOH(舞踏)に憧れ、自分探しの果てに日本にたどり着いたフランス人から、出稼ぎのペルー人、故国を追われたイラク人まで。登場する人々それぞれのエピソードを通じて、東京はトーキョーに姿を変え、日本の生きづらさも、生きやすさも、改めて浮かび上がる。体当たりのルポとは違う味わいのある“世話物”の一冊。
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枕草子/方丈記/徒然草 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集07

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集07
枕草子/方丈記/徒然草

「山が崩れて、川を埋めた。平らなはずの海が、斜めに突き刺さるように、陸を襲った。(中略)震災の直後、人びとは、少し変わったように見えた。目が覚めた。まったくどうしようもない社会だったんだ、といい合ったりしていた。おれたちは、欲に目がくらんでいたんじゃないか、とも。そう、人も社会も、震災をきっかけにして変わるような気がしていた。だが、何も変わらなかった。時がたつと、人びとは、自分がしゃべっていたことをすっかり忘れてしまったのだ」

この「震災」は、今から800年以上前に起きた元暦の地震(文治地震)のこと。

池澤夏樹編の日本文学全集。7巻は三大随筆の現代語訳。酒井順子訳「枕草子」、高橋源一郎訳「方丈記」、内田樹訳「徒然草」。優れた訳文によって、三者三様の雰囲気がよく出ており、清少納言、鴨長明、吉田兼好というのはこういう人だったんだなあということがよく分かる。
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もぎりよ今夜も有難う

片桐はいり「もぎりよ今夜も有難う」

映画というより映画館にまつわるエッセイ集。銀幕に憧れて育ち、銀座文化劇場(現シネスイッチ銀座)でもぎりのアルバイトを7年間していた著者の映画愛と映画館愛にあふれた一冊。もぎり時代の思い出を交えつつ、旅先で映画館を訪ねた際のエピソードなどが軽妙な文章で綴られる。
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断片的なものの社会学

岸政彦「断片的なものの社会学」

読書の喜びは、知らないことを知ることと、それ以上に、自分が感じていること――悲しみや苦しみも含めて――を他の誰かも感じていると知ることの救いの中にある。同じ考えでなくてもいい。自分以外の人も、自分と同じようにいろいろなことを感じ、考えている。それに気付くことが読書の最大の価値だと思う。

著者はライフヒストリーの聞き取りを重ねてきた社会学者。といってもここに書かれているのは、分析や仮説ではない。路上から水商売まで、さまざまな人生の断片との出会いの中で、著者自身が戸惑い、考えたことが柔らかな文体で綴られている。
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グアテマラの弟

片桐はいり「グアテマラの弟」

エッセイの名手とは聞いたことがあったが、これほど素敵な文章を書く人だとは。グアテマラで暮らしている弟を訪ねた旅の話に、幼い頃の家族の思い出などが挟まれる。少し手を入れるだけで、それぞれのエピソードがそのまま洒落た短編小説になりそうな趣がある。
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時をかけるゆとり

朝井リョウ「時をかけるゆとり」

「何者」で、23歳という若さで直木賞を受賞した著者のエッセイ集。執筆時期は現役大学生だった頃から、直木賞受賞直後に書いたものまで数年間にわたっている。

自転車旅行や就活の話など、内容的にはリア充(?)大学生の日記(しかも自虐風自慢多め)という感じだが、文章の巧みさと観察眼の鋭さ(この観察力は「何者」を読むとよく分かる)で非常に楽しい一冊になっている。腹の弱さを嘆き、美容師と格闘し、見通しの甘さで旅行をふいにする。大学生らしいバカバカしいエピソードの一つ一つに、吹き出したり、にやにやしたり、かつての自分の姿を思い出して赤面したりと、身近な話として引き込まれた。
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なつかしい芸人たち

色川武大「なつかしい芸人たち」

「麻雀放浪記」の阿佐田哲也のイメージで色川武大の「狂人日記」や「百」といった小説を読むと驚かされるが、さらにこうしたエッセイを読むと、その芸能分野の造詣の深さに再び驚嘆させられる。その上で、こうして著者の人生観は育まれたのだと、読みながらストンと腑に落ちる。
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