日本文学には古くから私小説(あるいは随筆文学)と紀行文の伝統がある。西洋人として初の日本文学の作家としてデビューした著者は、その二つの伝統を受け継いだ作品をものしてきた。
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たまたまザイール、またコンゴ
1991年のザイール、2012年のコンゴ。著者は、21年の歳月を隔てて、ザイール/コンゴ河の同じルートを丸木舟で旅する。一度目は夫婦で、二度目は若い研究者と。
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怪魚ウモッカ格闘記 インドへの道
ある意味、すごいノンフィクション。
デビュー作「幻獣ムベンベを追え」から未確認動物を旅の一つのテーマとしてきた著者は、あるウェブサイトで、インドの浜辺で謎の魚を見たという投稿を見つけ、インド行きを画策する。
事前調査・準備という旅の助走の描写がやけに長い。そして本の半ばを過ぎたところで最大の関門である、インドに入国できないという問題が立ち塞がる。著者は「西南シルクロードは密林に消える」でインドに密入国、強制送還されており、その記録が残っていたのだ。
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食べ歩くインド
すごい本である。インドの多様な食を紹介――といっても、研究者による食文化論ではない。タイトル通り、全インドを食べ歩くためのグルメガイド。かなり分かりやすく書かれているが、それでもニハーリーやクルチャーなどなじみのない言葉が次々と出てきて、文章を読みながら、異文化の中を旅している気分になる。「北・東編」「南・西編」の2分冊でボリュームたっぷり。旅行人の情報量の多いガイドブックを開いた時の興奮を思い出した。
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「地球の歩き方」の歩き方
黄色い表紙、青い小口塗りのガイドブックを手に初めての海外に出た人は少なくないのでは。
「地球の歩き方」は1979年創刊。海外旅行の自由化から15年が経っていたが、当時のガイドブックはパッケージツアーの参加者向けに異文化や観光地を紹介するものばかりで、移動手段や宿泊情報を載せた「歩き方」は画期的だった。
本書はその創刊に携わった4人、安松清氏、西川敏晴氏、藤田昭雄氏、後藤勇氏のインタビュー。「歩き方」の歩みは、そのまま日本の「自由旅行」「個人旅行」の歴史になっている。
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ガンジス河でバタフライ
20歳女子の一人旅。香港、シンガポール、マレーシア、インド。刊行は2000年だが、綴られている旅は90年代の初めのもの。ベストセラーで、テレビドラマ化されたこともあって、著者は女性バックパッカーのアイコンのようなイメージを築いた。
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失われた旅を求めて
あふりこ
川瀬慈編著「あふりこ フィクションの重奏/遍在するアフリカ」
人類学者5人の共著だが、研究報告ではなく、フィクション。
収録作は、川瀬慈「歌に震えて」「ハラールの残響」、村津蘭「太陽を喰う/夜を喰う」、ふくだぺろ「あふりか!わんだふる!」、矢野原佑史「バッファロー・ソルジャー・ラプソディー」、青木敬「クレチェウの故郷」の6編。エチオピア北部で歌を生業とする人々「ラワジ」や、西アフリカの妖術師など題材はさまざま。いずれも実験的な構成、内容で、小説、随想、散文詩などの境界を越えて、読み手を多様なアフリカの姿に誘う。
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深夜航路 午前0時からはじまる船旅
「深夜航路」というタイトルだけで旅情をかき立てられる。
夜行フェリーほど、旅をしている、という感覚を味わわせてくれる乗り物はない。フェリーに限らず、列車でもバスでも夜行には不思議な魅力がある。景色が見えないのになぜ旅の感慨がわくのか。そして、昼間の移動より記憶に残っていることが多いのはなぜだろう。
景色が見えないからこそ、なのかもしれない。著者も書いているように、夜の旅は内省的になる。内省する時間は自由の感覚とも結びついている。
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バンコクドリーム 「Gダイアリー」編集部青春記
「日本の恥!」と駐妻たちに目の敵にされた伝説の雑誌、という帯の文句が目を引く。1999年にバンコクで創刊された日本語月刊誌「Gダイアリー」は、ジェントルマン(紳士)の日記という名前の通りというか、裏腹にというか、夜遊びネタの豊富さで知られたが、一方で下川裕治や高野秀行といった作家の文章や硬派なルポも載る総合誌だった(らしい)。
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