失われた旅を求めて

蔵前仁一「失われた旅を求めて」

あの時代に旅をしてみたかったと想像を巡らすことがある。あの時行っておけば良かったと思う場所は数え切れない。

宮本常一や岡田喜秋の本を読めば、戦前や高度経済成長以前の日本を旅したかったと思うし、「深夜特急」や「何でもみてやろう」を読めば、その頃の世界を回ってみたかったと悔しくなる。世界地図に空白がある時代に憧れるし、江戸時代の街道も歩いてみたい。こうした思いはやり場が無い。旅は失われてしまうのだ。

本書は1980年代からバックパッカーとして世界各地を旅してきた著者の写真&エッセイ集。アジアからアフリカまで、80~90年代の写真に回想が添えられている。

1983年の中国、87年のクンジュラブ峠など、目次を見るだけでバックパッカーなら垂涎。「時が変えてしまった場所」、「世界から失われてしまった場所」(紛争・災害等で破壊)など章立てられているが、その中に「失いきれないインドとその周辺」とあって笑ってしまう。

自分が旅した2000年代前半はここに綴られた旅の残り香がまだぎりぎりあった時代で、そういう意味では幸せだった。旅そのものが完全に失われた2020年の春に思う。

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