すべてがFになる

森博嗣「すべてがFになる」

20年ほど前のベストセラーを今さらながら。

舞台は孤島の研究所。幼少期に両親を殺し、隔離されたまま研究を続ける天才少女と、その突然の死を巡って物語は進む。プログラミングや理系の学問の素養のある人は、タイトルや序盤の会話に隠されたヒントに気付くかもしれない。
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罪の声

塩田武士「罪の声」

昭和史の謎の一つ、グリコ・森永事件を題材に、犯人グループの子供たちのその後と、未解決事件を追う新聞記者の話が交互に綴られていく。一連の脅迫事件では子供の声を録音したテープが使われた。ある日、一人の青年が自宅でそのテープを見つけ、声の主が幼い頃の自分だと気づく。実際の事件の経過などを忠実になぞりつつ、仕手筋やヤクザの思惑が交錯した犯人グループの姿を丁寧に描いており、フィクションなのに、かなりの説得力のある仮説にもなっている。今年No.1ミステリーとの声も大げさではない傑作。

慟哭

貫井徳郎「慟哭」

娘を失い新興宗教にはまっていく男と、連続幼女誘拐殺人事件を追う警視庁捜査一課長の物語が交互に進む。大物政治家の隠し子で「ご落胤」「七光り」と揶揄され、自らの娘との関係も破綻している一課長の苦悩と、娘を亡くした男の狂気がやがて重なり合う。ミステリーとしてちょっとした仕掛けはあるものの、それよりはむしろ人間ドラマとして引き込まれた。ただ、仕掛けありきで肝心の謎が投げっぱなしなのは(狙ってのことだろうけど)個人的には物足りない。

ミステリーの書き方

日本推理作家協会「ミステリーの書き方」

現役ミステリー作家に、プロット、人物描写、トリック等さまざまな観点から創作手法を聞き、寄稿とインタビューでまとめた一冊。綾辻行人や有栖川有栖ら新本格派から、東野圭吾、石田衣良といったジャンル横断型、大沢在昌、船戸与一らハードボイルド系まで、顔ぶれも豪華というか主要作家はほぼ網羅。書き方指南というより、それぞれの作家の小説観や創作姿勢が伺えて面白い。経歴を並べるよりも雄弁な作家名鑑になっている。
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吉原手引草

松井今朝子「吉原手引草」

吉原で起きた花魁失踪事件を巡って、関係者一人一人の語りで徐々に真実を明らかにしていく。ミステリータッチの物語の面白さもさることながら、タイトルに「手引草」とあるように、語りを通じて、吉原の仕組みから作法まで分かるよう書かれている構成がみごと。内儀、番頭、新造、幇間、芸者、女衒――といった立場の登場人物の口から語られるのは、初会や水揚げ、身請けなどまさに一から十まで。
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煙か土か食い物

舞城王太郎「煙か土か食い物」

コアなファンのいる舞城王太郎のデビュー作。ミステリというよりは、家族の物語。舞城作品を手に取ったのはこれで3回目だけど、やはりどうにもこの文体に入り込めない。勢いには圧倒されるものの、それほどテンポが良いわけでもなく(それこそ町田康のようなリズム感もなく)、抑え気味の前半の方が好み。物語が結構骨太で面白いだけに、もっと丁寧に書き込んで欲しいと思ってしまう。完全に好みの問題だけど……。