京都に女王と呼ばれた作家がいた 山村美紗とふたりの男

花房観音「京都に女王と呼ばれた作家がいた 山村美紗とふたりの男」

「ミステリーの女王」と呼ばれた山村美紗の評伝。

他の作家に京都を舞台にしたミステリーを書くことを許さなかった。広告で自分より名前が大きく掲載された作家がいると、編集者を呼び出して謝罪させた――。数々の伝説に彩られた女王の生涯を、「ふたりの男」との関係を軸に描く。

副題の「ふたりの男」とは、ベストセラー作家の西村京太郎氏と、夫の山村巍氏。西村氏との関係は広く知られたが、夫の存在はほとんど表に出なかった。しかし決して不仲だったわけではない。元旅館を改装した豪邸の本館と別館に美紗と西村氏が住み、夫は向かいのマンションから妻のもとに通う。3人の関係は、まさに事実は小説より奇なり。

本書で何より印象的な描写は、女王と呼ばれ、派手好き、勝ち気な性格で知られた山村美紗が、実は病弱な体に苦しみ、主要な文学賞の受賞歴の無いことに深いコンプレックスを抱えていたことだろう。だからこそ、流行作家であることにこだわり、自身に関するうわさやスキャンダルも宣伝に利用した。夫はそんな妻を陰で支え、ベストセラー作家は同志として男社会の出版社と戦う盾になった。

美紗は96年、帝国ホテルで執筆中に急死。奇しくも96年は紙の本の売り上げがピークを迎えた年で、出版業界の華やかなりし時代とともに女王はこの世を去った。

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