ケアの倫理とエンパワメント

小川公代「ケアの倫理とエンパワメント」

「ケア」という言葉が最近よく聞かれるようになったが、それはこれまでの社会において、いかにケアという営為が軽んじられてきたかの裏返しだろう。近代社会では経済的・精神的な「自立」が重んじられ、他者に配慮し、関係性を結ぶ「ケア」の営為は軽視されてきた(その上で、介護や育児などのケア労働は女性などの弱い立場に押し付けられてきた)。

社会・経済活動の中でケアの価値観が軽視されたことは、文学作品の読解にも影響を与えていたのではないか。著者は「ケア」の視点から古今東西の文学作品を読み解き、近代的な価値観のもとで見過ごされてきた要素を丁寧に拾い上げていく。
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Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章

ルトガー・ブレグマン著、野中香方子訳「Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章」

 

人間は本質的に善良か、野蛮か。利己的か、利他的か。人間が信じるに足るものかどうかは、古来さまざまな分野で議論の対象になってきたが、近代社会はホッブズに代表されるような性悪説に基づいて構築されてきた。法や権力者の支配がなくては、人間社会は「万人の万人に対する闘争」に陥ってしまう――。そうした考え方は多くの人の心に根付いている。

しかし、著者は「ほとんどの人は本質的にかなり善良だ」と言い切る。人間の残酷さの証明とされるスタンフォードの監獄実験や、ミルグラムの服従実験などの欺瞞を暴き、人類がいかに協調性に富み、利他行為を厭わず、同胞を傷つけることに抵抗を覚える種かということを証拠とともに浮かび上がらせていく。その筆の運びはスリリングだ。
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資本主義の終わりか、人間の終焉か? 未来への大分岐

マイケル・ハート、マルクス・ガブリエル、ポール・メイソン、斎藤幸平編「未来への大分岐」

富の偏在や利潤率の低下などで資本主義は限界を迎えつつあるが、人類はまだ次の社会のあり方を見出せていない。同時に、20世紀を通じて育まれた相対主義の弊害を克服する道筋も見つけられていない。

マイケル・ハート、マルクス・ガブリエル、ポール・メイソンの3人と、カール・マルクスの再解釈で高い評価を受けた気鋭の研究者の対話集。討論と言うより、それぞれの思想、問題意識をかみ砕いて説明するような内容で、議論に入りやすい。
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21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考

ユヴァル・ノア・ハラリ「21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考」

「自由」「宗教」「戦争」など、21のテーマをめぐる考察。本書で最も(というか唯一)印象に残ったのが、大衆の存在意義がなくなる時代が迫っているという指摘。「存在意義の喪失と戦うのは、搾取と戦うよりもはるかに難しい」と著者は書く。
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夜と霧

V.E.フランクル「夜と霧」

精神科医が自身の収容所体験を綴った本書は、二十世紀を代表する書物の一つだろう。「夜と霧」という邦題で広く知られているが、原題は「…trotzdem Ja zum Leben sagen:Ein Psychologe erlebt das Konzentrationslager」(それでも人生を肯定する:心理学者、強制収容所を体験する)。人が物と化す極限状態の中で、著者が専門家として、一人の人間として見聞きし、感じ、考えたことが綴られている。人生はあなたにとって無意味かもしれない。それでも、あなたが生きることは無限の意味を持つとフランクルは言う。人間は常に問われている存在だという言葉は、今なお強く胸を打つ。
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断片的なものの社会学

岸政彦「断片的なものの社会学」

読書の喜びは、知らないことを知ることと、それ以上に、自分が感じていること――悲しみや苦しみも含めて――を他の誰かも感じていると知ることの救いの中にある。同じ考えでなくてもいい。自分以外の人も、自分と同じようにいろいろなことを感じ、考えている。それに気付くことが読書の最大の価値だと思う。

著者はライフヒストリーの聞き取りを重ねてきた社会学者。といってもここに書かれているのは、分析や仮説ではない。路上から水商売まで、さまざまな人生の断片との出会いの中で、著者自身が戸惑い、考えたことが柔らかな文体で綴られている。
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