古事記 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集07

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集01
古事記

池澤夏樹編の日本文学全集。第1巻では編者自ら古事記の新訳に取り組んだ。

古事記に関しては、石川淳の「新釈古事記」が素晴らしく、流麗で格調高い文章と読みやすさを両立していて何度読んでもため息が出てしまう。ただ、かなり言葉や要素を補っているため、現代語訳というよりは石川淳の作品と呼んだ方が相応しい。

池澤夏樹は本文を加筆することは極力避け、ページ下部に膨大な注釈を付けた。このことによって、神や人の名前の列記と、物語に挿入された数々の歌が大半を占める原典の構成がよく分かるようになった。特に名前の列記について池澤訳はこだわりを見せ、改行などで非常に見やすく並べている。
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枕草子/方丈記/徒然草 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集07

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集07
枕草子/方丈記/徒然草

「山が崩れて、川を埋めた。平らなはずの海が、斜めに突き刺さるように、陸を襲った。(中略)震災の直後、人びとは、少し変わったように見えた。目が覚めた。まったくどうしようもない社会だったんだ、といい合ったりしていた。おれたちは、欲に目がくらんでいたんじゃないか、とも。そう、人も社会も、震災をきっかけにして変わるような気がしていた。だが、何も変わらなかった。時がたつと、人びとは、自分がしゃべっていたことをすっかり忘れてしまったのだ」

この「震災」は、今から800年以上前に起きた元暦の地震(文治地震)のこと。

池澤夏樹編の日本文学全集。7巻は三大随筆の現代語訳。酒井順子訳「枕草子」、高橋源一郎訳「方丈記」、内田樹訳「徒然草」。優れた訳文によって、三者三様の雰囲気がよく出ており、清少納言、鴨長明、吉田兼好というのはこういう人だったんだなあということがよく分かる。
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良寛 旅と人生 <ビギナーズ・クラシックス 日本の古典>

松本市壽「良寛 旅と人生 < ビギナーズ・クラシックス 日本の古典>」

非常によくまとまっていて入門にも最適の一冊。個人的には良寛というと漢詩のイメージが強かったが、改めてその作品と生涯に触れ、晩年の歌が強く心に残った。

「手ぬぐひで 年をかくすや 盆踊り」
「形見とて 何残すらむ 春は花 夏ほととぎす 秋はもみぢ葉」
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西行 魂の旅路 <ビギナーズ・クラシックス 日本の古典>

西澤美仁「西行 魂の旅路 < ビギナーズ・クラシックス 日本の古典>」

和歌を解するような風雅な心も知識も無いけれど、西行から芭蕉、山頭火に至る旅する歌人が残した歌には幾つか心惹かれるものがある。それは、歌の精神性の高さに感銘を受けるというよりは、身近で分かりやすい感慨を素直な言葉で表現しているからだと思う。
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日本語のために 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集30

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集30
日本語のために

日本語は世界的に見ても非常に多様な表現形態を持っている。

池澤夏樹選の日本文学全集30巻は、文体のサンプル集とでも言うべき内容。祝詞や経文、漢詩から、琉歌(琉球語の定型詩)や、アイヌ語の文章まで。聖書の翻訳や、ハムレットの独白もそれぞれ6種類収録され、日本語の幅の広さがよく分かる。
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好色一代男、雨月物語ほか 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集11

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集11
好色一代男/雨月物語/通言総籬/春色梅児誉美

江戸文学の豊かさとレベルの高さがよく分かる一冊。

「好色一代男」は“女3742人、男725人”と交わった男、世之介の一代記。7歳から60歳までを1年1話で綴り、1話完結の連載漫画のようなテンポの良さ。世之介、7歳、夏の夜。子守の女中に「恋は闇というのを知らないか」と迫り、10歳で早くも男色に目覚める。後半にいくにつれて徐々にマンネリ化していくのも連載漫画っぽい。 “好色一代男、雨月物語ほか 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集11” の続きを読む

平家物語 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09
古川日出男訳「平家物語」

祇園精舎の鐘の声/諸行無常の響きあり/沙羅双樹の花の色/盛者必衰の理をあらはす

冒頭の文章は誰でも知っているのに、ちゃんと平家物語を読み通したことがある人は少ないのでは。古川日出男は壮大な軍記物語を、現代の小説の文体を取らず、あくまで琵琶法師の語りとして現代に蘇らせた。

「祇園精舎の鐘の音を聞いてごらんなさい。ほら、お釈迦様が尊い教えを説かれた遠い昔の天竺のお寺の、その鐘の音を耳にしたのだと想ってごらんなさい。
諸行無常、あらゆる存在(もの)は形をとどめないのだよと告げる響きがございますから」

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池澤夏樹=個人編集 日本文学全集08

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集08
日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集

鎌倉時代に成立したとされる「宇治拾遺物語」。煩悩を断ち切るために陰茎を断ち切った、という僧侶が貴族の家を訪れ、証拠として下半身を露出。主の命を受けた小僧が下半身の密林を探ると、刺激を受けたモノが巨大化して噓が露見。という話(「玉茎検知」)があって、高校生の頃に読んで度肝を抜かれたことを思い出す。
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池澤夏樹=個人編集 日本文学全集10

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集10
能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵

池澤夏樹編集の日本文学全集。収録作のセンスも光るが、何より古典の現代語訳者のセレクトが面白い。町田康の宇治拾遺物語、古川日出男の平家物語、角田光代の源氏物語など、組み合わせを聞いただけで、小説好きなら手に取らずにはいられない。

この10巻は能・狂言に説経節、浄瑠璃という芸能分野の作品が収められている。今でこそ馴染みが薄れた作品群だが、どれも中世から江戸時代にかけて広く知られ、日本人の心性を作ってきた物語として必読(教科書に載っているような古典よりずっと影響力があっただろう)。何より「女殺油地獄」の現代性や「菅原伝授手習鑑」「仮名手本忠臣蔵」の構成の妙など、決して古びてなく、純粋に読み物として引き込まれる。訳のレベルも高く、謡い、語られるための曲をどう現代の散文に訳すかに作家の個性がはっきりと出ていて面白い。
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