池澤夏樹=個人編集 日本文学全集03

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集03
竹取物語/伊勢物語/堤中納言物語/土左日記/更級日記

中高の授業で古典嫌いを量産してきただろう作品群がユニークな現代作家の手を経て生まれ変わった。

森見登美彦訳「竹取物語」は究極の失恋物語を瑞々しく。

川上弘美訳「伊勢物語」は、和歌を大胆に意訳(逢ふことは玉の緒ばかり思ほえてつらき心の長く見ゆらむ→逢うのは/一瞬/恨みは/永遠)しつつ詩情豊か。

中島京子訳「堤中納言物語」は丁寧で的確。和歌全てをそのまま31字の現代短歌に訳すという離れ業。

堀江敏幸の「土左日記」はシンプルな訳ではなく、“紀貫之による解説”を創作で大量に書き込んでおり、ほぼ堀江の作品といえる内容。日本文学全集と銘打ったシリーズに相応しい仕事かは疑問が残る。

個人的に最も面白く読んだのが、江國香織訳「更級日記」。“地味な文学少女の自伝”感が良く出ていて、千年も前の話とは思えない。「もっと本が読みたい」と騒いでいたオタク少女が、年を重ねて人生の悲哀を経験し、神仏を軽視しすぎたという感傷からスピリチュアルに傾倒していく。こんな人、今でもたくさんいるのでは。

高校時代に古典で多少なりとも面白いと思えたのは宇治拾遺物語などの説話文学くらいだったけど、改めてこれら平安期の作品に触れて、その面白さに感動。同時に、この時代にこれだけ多彩な作品を口承ではなく文字で生み出していた日本文学の早熟さにも驚かされた。

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