フルハウス

柳美里「フルハウス」

表題作は泉鏡花文学賞と野間文芸新人賞を受賞した著者の初期の代表作の一つ。

ばらばらになった家族を立て直すことを夢見て、立派な一戸建てを新築した父。しかし、成人して自分たちの生活を確立している娘たちも、ずっと以前に家を出た妻も、寄りつく気配はない。父はその空虚を埋めるかのようにホームレス一家をその新居に住まわせる。
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夜と霧

V.E.フランクル「夜と霧」

精神科医が自身の収容所体験を綴った本書は、二十世紀を代表する書物の一つだろう。「夜と霧」という邦題で広く知られているが、原題は「…trotzdem Ja zum Leben sagen:Ein Psychologe erlebt das Konzentrationslager」(それでも人生を肯定する:心理学者、強制収容所を体験する)。人が物と化す極限状態の中で、著者が専門家として、一人の人間として見聞きし、感じ、考えたことが綴られている。人生はあなたにとって無意味かもしれない。それでも、あなたが生きることは無限の意味を持つとフランクルは言う。人間は常に問われている存在だという言葉は、今なお強く胸を打つ。
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カブールの園

宮内悠介「カブールの園」

芥川賞候補になった表題作は、幼い頃に受けたいじめや差別の記憶と、過干渉な母との関係に悩む日系女性が主人公。タイトルからアフガニスタンの話かと思ったら、「カブールの園」とは女性が受けているセラピーのことを指す言葉で、作品の舞台は米国西海岸。現実のカブールは作中に登場しない。
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西南役伝説

石牟礼道子「西南役伝説」

西南戦争を体験した古老の話の聞き書き。「苦海浄土」と並ぶ著者の代表作とされながら、絶版で全集以外では手に入りにくかった作品だが、追悼か、大河ドラマ効果か、講談社文芸文庫から再刊された。ノンフィクションというよりは、巫女に喩えられることもある偉大な作家が語り直した文学作品といった方がふさわしい。
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屈辱ポンチ

町田康「屈辱ポンチ」

十数年ぶりに再読。著者の作品は高校生の時に「夫婦茶碗」を読んで爆笑して以来、新刊が出ると手に取ってきた。それまで活字、ましてや小説で声を上げて笑ったことなんてなかったので、小説の面白さを教えてくれた作家の一人でもある。年を重ね、笑いに対して鈍感になった(涙腺は緩くなったのに)せいか、もはや吹き出すことは無かったけど、今読んでもやっぱり面白い。
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転校生

平田オリザ「転校生」

朝起きたら転校していることに気付き、それ以前の記憶は無くしてしまったという生徒が教室に入ってくる。劇中にも登場するカフカの作品を連想させるような不思議な展開だが、その謎を掘り下げていくわけではなく、生徒たちの日常会話がだらだらと続いていく。
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いつも旅のなか

角田光代「いつも旅のなか」

著者の作品を読むようになったのは比較的最近で、バックパッカーのような旅をしていたことや、旅のエッセイを結構書いていることも知らなかった。

旅行記の面白さには二種類あって、一つは自分ができない旅を体験させてくれること、もう一つは自分がした旅を思い出させてくれること。著者のエッセイは後者(団体旅行しかしたことがない人には前者だろうけど)で、等身大の旅の描写に、読みながらうなずくことが多かった。
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