2022年に読んだ本は173冊(前年比6増)、4万6311ページ(同581減)で前年並み。良い本はたくさんあったけど、強い印象を残した本は少なく、ベスト30は挙げられてもベスト10は難しい、そんな年。
前年に続き、新刊中心の読書。新作で大傑作に当たる確率は、時間による淘汰を経た作品群に比して言うまでもなく低い。にもかかわらず、わりと良い本が多かった印象が残ったのは、当たり年だったということかもしれない。文學界新人賞の年森瑛「N/A」、文藝賞の安堂ホセ「ジャクソンひとり」、日比野コレコ「ビューティフルからビューティフルへ」など、新鋭の作品が充実していた。
ただデビュー作ということもあって、いずれも小振りな作品。それに対して小説ならではの凄みに満ちていたのは、古川日出男「曼陀羅華X」、古谷田奈月「フィールダー」、島田雅彦「パンとサーカス」といった中堅、ベテラン陣の長編。
松浦理英子「ヒカリ文集」、絲山秋子「まっとうな人生」は、散文にしかできない形式とまなざしで人間の生を見つめ、読後強い余韻があった。滝口悠生「水平線」、井戸川射子「この世の喜びよ」も、記憶と幸福をこのような形で文章に落とし込むことができるのだと、深い感動があった。
辻原登「隠し女小春」は、技巧派のベテランらしい一作。片岡義男「これでいくほかないのよ」で短編小説の面白さを再認識。小川哲「地図と拳」は旧満州版「百年の孤独」といえる力作だが、欲を言えば「百年の孤独」のボリュームに凝縮してほしかった。同じ作者の「君のクイズ」も傑作。
そして、新作ではないが今年の収穫の筆頭に「李良枝セレクション」「ことばの杖―李良枝エッセイ集」を挙げたい。没後30年経って、その主題に日本文学のメインストリームが追いついた印象を受ける。
文学がかつてのような力を持たなくなって久しいが、日本語の散文は確実に豊かになっていると実感させられたのは、イリナ・グリゴレ「優しい地獄」、グレゴリー・ケズナジャット「鴨川ランナー」、温又柔「祝宴」「永遠年軽」、多和田葉子「太陽諸島」(+「星に仄めかされて」「地球にちりばめられて」)。
純粋な面白さだけなら、ファーストコンタクトものの到達点、アンディ・ウィアー「プロジェクト・ヘイル・メアリー」と、「三体」の二次創作外伝、宝樹「三体X 観想之宙」が今年の熱中本。
エッセイ集では、水上勉「精進百撰」、せきしろ「放哉の本を読まずに孤独」、赤染晶子「じゃむパンの日」がベスト3。
そのほか、順不同で、土井善晴「一汁一菜でよいと至るまで」、土井善晴・中島岳志「料理と利他」、山田詠美「私のことだま漂流記」、町田康「私の文学史」、高橋源一郎「ぼくらの戦争なんだぜ」、田中真知「孤独な鳥はやさしくうたう」、ハン・ガン「菜食主義者」、谷川俊太郎「虚空へ」、「人生相談 谷川俊太郎対談集」。