能の大成者、世阿弥の晩年には、死没地を含め不明な点が多い。72歳で時の将軍、足利義教に疎まれ、佐渡に配流。その2年前には長男、観世元雅に先立たれている。本書はそんな失意の日々に光を当て、世阿弥が佐渡で見つけた「最後の花」を浮かび上がらせる。
“世阿弥最後の花” の続きを読む
アンブレイカブル
治安維持法を巡る連作短編集。
「雲雀」「叛徒」「虐殺」「矜恃」の4編で、それぞれ、プロレタリア文学の旗手・小林多喜二、反戦川柳作家・鶴彬、「横浜事件」で弾圧された言論誌の編集者ら、哲学者・三木清を物語の中心に据えている。スパイ小説「ジョーカー・ゲーム」の著者らしく、罪を仕立て上げようとする官憲と、表現者の息詰まる心理戦が描かれる。
“アンブレイカブル” の続きを読む
インビジブル
戦後まもない時期の大阪にあった大阪市警視庁を舞台とした警察小説。民主警察の理想と現実、戦争の残した傷、そしてそれらを乗り越えて生きようとする人々の姿が描かれている。
“インビジブル” の続きを読む
童の神
タイトルの童は子供ではなく、まつろわぬ民のことを指す。鬼、土蜘蛛、滝夜叉、山姥などの名で呼ばれ、京人(みやこびと)から恐れ、蔑まれた人々。彼らが手を携え、朝廷に立ち向かう。
朝廷による蝦夷征討が一種の侵略であるという理解は今では珍しくないが、著者は大江山の鬼退治伝説に注目し、京周辺の被征服民に光を当てる。
“童の神” の続きを読む
じんかん
熱源
樺太アイヌのヤヨマネクフと、故郷を奪われたリトアニア生まれのポーランド人、ブロニスワフ。史実に基づいて展開する2人の生涯が“文明”に抗った人々の熱を現代によみがえらせる。
“熱源” の続きを読む
渦 妹背山婦女庭訓 魂結び
浄瑠璃作者、近松半二の生涯を書く時代小説。近松門左衛門の縁者か弟子のように思われがちな名前だが、直接の関係はなく、半二が門左衛門に私淑して近松姓を名乗った。
近松半二こと穂積成章は、儒学者で浄瑠璃好きの父のもとで育ち、道頓堀の竹本座に通ううちに浄瑠璃を書くようになる。同時代の歌舞伎作者、並木正三と半二を幼馴染みの関係としたフィクションの設定が物語を魅力的なものにしている。
“渦 妹背山婦女庭訓 魂結び” の続きを読む
北方探検の英傑 近藤重蔵とその息子
江戸時代後期、千島列島をはじめとする蝦夷地を探検し、北方の開拓・防備に大きな功績を残したものの、不遇の後半生を送った近藤重蔵。その息子で、殺人に手を染めてしまい、流刑先の八丈島で「八丈実記」という大部の地誌を記した近藤富蔵。数奇な運命を辿った父子の物語。
“北方探検の英傑 近藤重蔵とその息子” の続きを読む
金色機械
時代小説×ファンタジー。珍しい組み合わせのようで、実際には漫画や娯楽小説、八犬伝などの古典から様々な民話にまでさかのぼる日本文学においては鉄板のテーマ。
危険を察知する天賦の才能に恵まれた遊廓の大旦那と、触れた者の命を奪うことが出来る能力を持った女。二人の半生を、金色様と呼ばれる(C-3POを連想させる)未来から来たアンドロイドの存在が繫ぐ。入り組んだ複数のドラマに、安直な予想を裏切る仕掛けも何度か挟まれ、先へ先へと物語はスピードを上げていく。
“金色機械” の続きを読む
宇喜多の捨て嫁
戦国時代屈指の悪役で、謀将、梟雄と恐れられた宇喜多直家をめぐる連作短編集。表題作はオール讀物新人賞を受賞した著者のデビュー作だが、短編とは思えない広がりを持ち、作家としての大器を感じさせる。
“宇喜多の捨て嫁” の続きを読む