樺太アイヌのヤヨマネクフと、故郷を奪われたリトアニア生まれのポーランド人、ブロニスワフ。史実に基づいて展開する2人の生涯が“文明”に抗った人々の熱を現代によみがえらせる。
樺太・千島交換条約、ポーツマス条約、第二次世界大戦と、南樺太は日本とロシアの間で揺れ続けた。ヤヨマネクフの日本名は山辺安之助。白瀬南極探検隊に参加し、金田一京助の「あいぬ物語」の語り手としても知られる。ブロニスワフは流刑先のサハリン(樺太)で民族学の研究を始め、ヤヨマネクフと出会う。
「私たちは滅びゆく民と言われることがあります」「けれど、決して滅びません」「もしあなたと私たちの子孫が出会うことがあれば、それがこの場にいる私たちの出会いのような幸せなものでありますように」
優生思想と人種間の優劣が盛んに語られた時代。“文明”が“遅れた民”を飲み込み、開化の美名のもとに滅ぼしていく。ブロニスワフの録音機の前で、未来に向けてヤヨマネクフが語る言葉は、現代に生きる私たちに問いかける。
自国を知るためには辺境の地、周縁の民の歴史こそ学ばなくてはならないと思うが、自分も含め、樺太の歴史を聞かれて即答できる人は少ないのでは。デビュー2作目で小説としてはまだ生硬な部分もあるものの、映画化などで多くの人の目に触れてほしい物語。
日本は軍拡に突き進み、ポーランドは暴力革命への道を走る。物語の根底に、人のすることは人が止められるという強いメッセージも込められている。