旧車マニアであるニール・ヤングが車との関わりを軸に半生を振り返った回想記。原題は「Special Deluxe:A Memoir of Life & Cars」。
ロックのレジェンド、我が道を行くという点ではディランと双璧ともいえるニールの半生は、それだけでも興味深い。ただ、自伝や伝記は既にあるし、内容はそちらの方が細かい。×年型○○と車の名前が次々と出てくるからアメ車ファンにはたまらない内容だろうが、自分にはその方面の知識も車への関心も全く無い。さらに、学術書のような値段(4800円)が、手に取るのをためらわせていた。
しかし、いざ読み始めてみると、これがめちゃくちゃ面白い(自分がニール・ヤングの熱狂的なファンであるということを差し引いても)。
アメリカや、ニールが生まれ育ったカナダでは、車は日本以上に身近で欠かせないものだ。移動のための道具というより、家のような感覚なのだろう。数々の車に彩られたニールの半生は、そのままアメリカの現代史、大衆文化史の一側面を表している。
カナダからアメリカに中古の霊柩車で出てきたという話はファンには有名だが、カナダ時代のバンドでも機材の出し入れに便利だから霊柩車を使っていたらしい。レコーディングの場面など、音楽活動に関する記述も鮮やかで、一つ一つのエピソードに思わず笑みがこぼれる。
若い頃から政治的メッセージを打ち出すことをためらわず、社会問題にも関心を示してきたニールだが、00年代以降は環境保護活動に打ち込むようになる。本書でも、終盤は1959年型リンカーン・コンチネンタルをバイオディーゼルと電気のハイブリッド車に改造する試行錯誤が詳しく書かれている。環境に優しくないクラシック・カーを偏愛し続けた末に、急進的な環境保護活動家に至ったというのがいかにも彼らしい。
変わることをためらわず、常に自分の信念を貫く。夢想家だが、これほどかっこいい夢想家は他にいない。