阿佐田哲也「ドサ健ばくち地獄」
「新麻雀放浪記 申年生まれのフレンズ」
戦後を代表する大衆小説で、青春小説、ピカレスクロマンの金字塔「麻雀放浪記」。「ドサ健ばくち地獄」と「新麻雀放浪記」はその続編にあたり、時代は「麻雀放浪記」の数年後と十数年後。それぞれ、ドサ健を取り巻く人間模様と、40歳になった坊や哲が、若い“ヒヨッ子”の師匠になる話が綴られる。
ドサ健は「麻雀放浪記」の登場人物の一人で、狂気ともいえるほど博打にとりつかれた男。「ばくち地獄」は麻雀よりも手ホンビキの場面が多く、ドサ健を中心に博打で身を崩していく人々の姿が、ひりひりするような緊張感で描かれる。
一方、「新麻雀放浪記」には「ばくち地獄」のような緊張感も、「麻雀放浪記」のようなロマンも無い。博打のシーンはあるものの、どこか精彩に欠ける。坊や哲は既に博打の世界で生きていないし、その精彩の無さは時代と人生の変転を示している。
ただ、2作の執筆(連載)時期は1978~79年と80年で、実は離れていない。博打の外の世界で生きるようになった著者が、博打の世界でしか生きられない人々を描いたのが「ばくち地獄」で、自分を投影した主人公に人生観を滲ませたのが「新」と言える。
ともに絶版だが、電子書籍で手に入るほか、小学館の電子全集第5巻にも収録されている。
色川武大/阿佐田哲也電子全集は昨年4月から刊行が始まった。
本好きとしては紙の本への思い入れは深いけど、賃貸暮らしで本棚の限られる身としては電子版の利便性が勝ってしまう。これまでに購入した電子書籍が400冊超。これだけの本を追加で収納するスペースを捻出するのは今の部屋では難しい。
好きな作家は全集を手元に揃えて時々読み返したいけど、値段と置き場所の関係でなかなか手が出ない。そうした中で、電子版全集の刊行が少しずつ広がっているのがうれしい。
安部公房、宮本常一、石牟礼道子あたりの全集もぜひ電子化してほしい。電子書籍には基本的に絶版が無いから、全集こそ電子化を。