小屋を燃す

南木佳士「小屋を燃す」

「畔を歩く」「小屋を造る」「四股を踏む」と表題作「小屋を燃す」の4編。医師として働きながら、私小説的な等身大の小説を発表してきた著者の退職後の日々。

うつ病を発症し、理想通りにはいかなかった医師としての半生。そして、退職。地元の仲間たちと小屋を建て、酒を酌み交わす。その日々もやがて終わりを告げる。
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笛吹川

深沢七郎「笛吹川」

再読。

戦国時代の笛吹川沿いに暮らした農民一家の物語。武田家の盛衰を背景に、歴史に名を残すこともない人々が次々と生まれては死んでいく。

そこには、意味もドラマもない。戦国時代を描いてはいるが、いわゆる時代小説、歴史小説とは全く手触りが違う。著者は、歴史でも過去でもなく、人間という存在の本質的な軽さのようなものを見つめている。
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感傷旅行(センチメンタル・ジャーニィ)

田辺聖子「感傷旅行(センチメンタル・ジャーニィ)」

表題作は、数々の名作を著した文豪(という呼称はあまり似合わないかも)の記念すべき芥川賞受賞作。豪快なキャリアウーマンが「(共産)党員」に恋して大騒ぎ。著者らしいユーモア溢れる男女の物語。

表題作も面白いが、併録作がいずれも素晴らしい。すれ違えない狭い田舎道で鉢合わせた路線バスの運転手の意地の張り合いを描く「山家鳥虫歌」、タイトルからは想像できない痛快な下ネタ「喪服記」、ほかに「大阪無宿」「鬼たちの声」「容色」「とうちゃんと争議」「女運長久」。何気ない日常の一場面を重ねていって人生の哀歓を浮かび上がらせる。諷刺が効いていて、やわらかな大阪弁も読んでいて心地いい。
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文章読本

丸谷才一「文章読本」

「作文の極意はただ名文に接し名文に親しむこと、それに盡きる。事実、古来の名文家はみなさうすることによつて文章に秀でたので、この場合、例外はまつたくなかつたとわたしは信じてゐる」

文章術の本は、作家、記者、ライター、学者など、さまざまな立場の人の手で数え切れないほど書かれてきたし、今も新刊が続々と誕生している。その大きな流れの一つとして、谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫など、作家による「文章読本」がある。その中でも丸谷才一の文章読本は、作家系の本としては、谷崎らの先行作の内容を踏まえていることもあり、決定版と言っていいだろう。
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掌の小説

川端康成「掌の小説」

掌編小説集。収録作は百編余。散文詩というような、限界まで削ぎ落としたような作品群で、気の利いたオチのあるショートショートではない。軽い読み物のつもりで手に取ったものの、いざ開いてみると一編、一編、読むのに体力が入り、一年以上かけて少しずつ読み進めてきた。
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