獣の奏者

上橋菜穂子「獣の奏者」

     

久しぶりにファンタジーが読みたくなったので、未読だった人気シリーズを一気読み。「I 闘蛇編」「II 王獣編」「III 探求編」「IV 完結編」「外伝 刹那」の5巻。

闘蛇と王獣という兵器になり得る力を持った生物を巡る物語。厳しい戒律で管理され、決して人に馴れぬとされてきた王獣を操る技術を身につけてしまったことで、主人公の少女は運命の奔流に巻き込まれる。闘蛇と王獣を近代兵器のメタファーとした寓話としても読めるが、エンタメ小説にそうした解釈を一々差し挟むのは無粋だろう。とにかく面白い。
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金色機械

恒川光太郎「金色機械」

時代小説×ファンタジー。珍しい組み合わせのようで、実際には漫画や娯楽小説、八犬伝などの古典から様々な民話にまでさかのぼる日本文学においては鉄板のテーマ。

危険を察知する天賦の才能に恵まれた遊廓の大旦那と、触れた者の命を奪うことが出来る能力を持った女。二人の半生を、金色様と呼ばれる(C-3POを連想させる)未来から来たアンドロイドの存在が繫ぐ。入り組んだ複数のドラマに、安直な予想を裏切る仕掛けも何度か挟まれ、先へ先へと物語はスピードを上げていく。
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不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか

鴻上尚史「不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか」

陸軍の最初の特攻隊「万朶隊」の隊員で、9回出撃し、通常攻撃や機体の故障などで9回とも生きて帰ってきた佐々木友次氏の記録。亡くなる2カ月前までの貴重な証言が収められている。
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生家へ

色川武大「生家へ」

阿佐田哲也名義の作品には家族の話はあまり出てこないが、色川武大の小説では生家と父親のことが繰り返し語られる。無頼派として知られる作家だが、その根底には孤独と劣等感とともに、自身のルーツに対する深い愛惜がある。

「生家へ」は回想に幻想が混じり合った連作短編。77~79年にかけて発表され、幼い頃に級友たちになじめなかったコンプレックスと、屈託を抱えた高齢の父親との愛憎入り交じった関係がさまざまに角度を変えて綴られる。
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夜を賭けて

梁石日「夜を賭けて」

青々と茂った木々の間を、家族連れや観光客、ジョギングで汗を流す男女が行き交う。広大な敷地が緑に覆われ、穏やかな空気の流れる大阪城公園だが、1960年代までそこには見渡す限りの焼け跡が広がっていた。

梁石日の「夜を賭けて」は、その焼け跡を舞台とした青春小説。アパッチ族と大村収容所という忘れられた歴史事実に光を当て、時代に翻弄され続けた在日コリアンの戦後史を描き出している。
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中島らもエッセイ・コレクション

「中島らもエッセイ・コレクション」(小堀純・編)

中島らものエッセイ集。「生い立ち・生と死」「酒・煙草・ドラッグ」「文学・映画・笑い」「不条理と不可思議」「性・そして恋」など、テーマごとにまとめられたベスト盤的な内容。

型破りな生き方をして早世したイメージが強い作家だが、丁寧に編まれた本書を通じて浮かび上がるのは、その博覧強記ぶりと、他者に向き合う時の真摯さだ。ニヒリストでありながら、ヒューマニスト。恋に関する文章では、ロマンチストでセンチメンタリストな一面ものぞく。
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花柳界の記憶 芸者論

岩下尚史「花柳界の記憶 芸者論」

芸者。日本文化のアイコンの一つとされながら、その実態はよく知られていない。遊女と混同されることもあるが、吉原などの廓において職掌は明確に分けられ、芸者の売色は固く禁じられてきた。新橋演舞場に勤め、東都の名妓に長年接してきた著者による本書は、古代の巫女にまで遡って芸者と遊女の本質を探る優れた日本文化論となっている。
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