紀州 木の国・根の国物語

中上健次「紀州 木の国・根の国物語」

「紀伊半島は海と山と川の三つの自然がまじりあったところである。平野はほとんどない。駅一つへだてるとその自然のまじり具合がことなり、言葉が違い、人の性格は違ってくる」

「海からの潮風が間断なく吹きつけるこの枯木灘沿岸で、作物のほとんどは育たない。木は枯れる。(中略)潮風を受けて崖に立っていると、自分が葉を落とし枝が歪み、幹の曲がった樹木のような気がしてくる」
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辺境を歩いた人々

宮本常一「辺境を歩いた人々」

日本では、探検家といってもあまり具体的な名前が浮かばない人が多いかもしれない。小さな島国で、未踏の地、未知の地とはあまり縁がなかったようなイメージがあるが、実際には多くの探検家や旅行者が辺境を調査し、“国土”を切り開いてきた。

流刑先の八丈島で「八丈実記」という詳細な地誌を残した近藤富蔵。東北を歩き、民衆の生活誌を細かく記した菅江真澄。蝦夷地の内陸部を踏査した松浦武四郎。南西諸島と千島列島の調査に先鞭を付けた笹森儀助。4人の半生を中心に、辺境を歩いた先人の業績を語る。
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浮遊霊ブラジル

津村記久子「浮遊霊ブラジル」

アイルランドへの旅行を前に死んでしまい、未練から浮遊霊となった72歳の男の姿を描いた表題作が面白い。

身体が壁をすり抜け、建物に自由に出入りできる一方、車や電車に乗ることができず、歩く速度でしか動けない。下心から近所の銭湯に行ってみるも同世代しかおらず、無為な日常に飽きてしまったところで、人に取り憑いて移動できることに気付く。そこから憑依を重ねるも念願のアイルランドは遠く、不思議な巡り合わせでブラジルに辿りついてしまう。
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京都のおねだん

大野裕之「京都のおねだん」

本来、モノやサービスの値段は、売り手と買い手との関係性や、その時々の状況などさまざまな要因で決まる。言い換えれば、値段はそこに多様な情報を含んでいる。

近代化と共に値段の付け方は均質化され、一律に提示することが難しい“よく分からない値段”が敬遠されるようになってきたが、京都にはまだ一部にそうした“おねだん”が残っている。チャプリンの研究者である著者は、京都に住んで20年あまりの「京都人見習い」。ゲーム感覚で京都という多様な顔を持つ社会に分け入っていく。
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縮小ニッポンの衝撃

NHKスペシャル取材班「縮小ニッポンの衝撃」

2017年に発表された推計では、今後半世紀で日本の人口は約3900万人減り、2065年に8808万人になるという。2025年には5人に1人が75歳以上という超高齢社会に突入し、同時に東京でも人口が減少に転じる。2010年時点で人が住んでいた地点の約2割が2050年までに無住化するという推計もあり、日本社会は確実に縮小していく。

本書は2016年にNHKスペシャルで放送された内容を書籍化したもの。冒頭で、地方の過疎の影に隠れがちな東京の課題が明らかにされている。
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