南へ/さよならだけが人生か

平田オリザ戯曲集4「南へ/さよならだけが人生か」

舞台は日本を出て南へ向かう船の上。乗客と船員のとりとめのない会話が続く。乗客たちは日本を捨てていくようだが、その背景は説明されない。南に何があるのかも。船の上では、だらだらと弛緩した時間が流れる。会話にはユーモアが散りばめられているものの、そこに漂う空気はどこか暗い。
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辺境メシ ヤバそうだから食べてみた

高野秀行「辺境メシ ヤバそうだから食べてみた」

食に関する名著はいろいろあるが、そこに並ぶ(と同時に異彩を放つ)一冊と言ってもいいだろう。

ゴリラにムカデ、タランチュラと、食材もさまざまなら、ヤギの胃液のスープや、豚の生き血の和え物、ヒキガエルをミキサーにかけたジュースなど調理法も多種多様。何をどう食べるかには人間の叡智、というのは大げさかもしれないが、人間の積み重ねてきた歴史が詰まっている。登場する料理の珍しさに目が行くが、食感や風味など、丁寧かつ的確(か確かめようがないけど)な表現で、なんとなく食べた気にさせる筆力がみごと。
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夏物語

川上未映子「夏物語」

個人の決定が尊重される時代であっても、誕生だけは当人の意志で左右できない。ならば命を生み出すことは、一方的な欲望の押しつけなのか。

本書は芥川賞受賞作「乳と卵」と前半部が重なっている。続編というよりも、全面的に書き換え、大幅に加筆した物語と言った方が正確だろう。
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ほしのこ

山下澄人「ほしのこ」

海沿いの小さな小屋。社会の外側で暮らす父と娘。少女は父親から遠くの星から来たと言われて育つ。やがて父はいなくなる。入れ替わるように、どこかから女の子がやってくる。後半、物語の視点は揺れ動き、「わたし」は山に落ちた飛行機乗りになっている。生と死の影が混ざり合う。
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古文書返却の旅―戦後史学史の一齣

網野善彦「古文書返却の旅―戦後史学史の一齣」

戦後まもなく、水産庁の研究所で、全国の漁村に残る古文書を集めようという壮大なプロジェクトがあった。日本常民文化研究所に委託されて始まったその事業は結果的に打ち切りとなり、日本各地から収集された膨大な文書が後に残された。

著者はその後始末を通じて、網野史学とも呼ばれる新たな歴史認識を築き上げた。三十年以上も未返却となっていた文書を頭を下げながら返却して回り、その過程で襖の下張文書などから新たな史料を見出し、日本史の常識を疑い始めた。
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ダリエン地峡決死行

北澤豊雄「ダリエン地峡決死行」

おそらく最も越えるのが難しい国境だろう。

コロンビアとパナマの国境であるダリエン地峡は密林が覆い、道らしい道も存在しない。コロンビアでは長くFARC、AUCを中心とした内戦状態が続き、国境の密林はコカインの密輸ルートにもなってきた。近年、コロンビアの治安は劇的に改善されたが、ダリエン地峡は今なお、ゲリラやマフィアが跋扈し、地雷が至る所に埋められ、戦闘や誘拐事件が続いている。
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