表題作は、数々の名作を著した文豪(という呼称はあまり似合わないかも)の記念すべき芥川賞受賞作。豪快なキャリアウーマンが「(共産)党員」に恋して大騒ぎ。著者らしいユーモア溢れる男女の物語。
表題作も面白いが、併録作がいずれも素晴らしい。すれ違えない狭い田舎道で鉢合わせた路線バスの運転手の意地の張り合いを描く「山家鳥虫歌」、タイトルからは想像できない痛快な下ネタ「喪服記」、ほかに「大阪無宿」「鬼たちの声」「容色」「とうちゃんと争議」「女運長久」。何気ない日常の一場面を重ねていって人生の哀歓を浮かび上がらせる。諷刺が効いていて、やわらかな大阪弁も読んでいて心地いい。
「とうちゃんと争議」は労働争議に明け暮れる夫を持つ妻の視点を素朴な筆致でつづった作品。
「男たちの議論を聞いていると、重箱のすみを楊子でほじくってみたり、またほじくり方のうまいことをきそい合ってみたり、ほじくったゴミを戦果のように並べて自慢してみたり、ばかりで、その重箱をどう使うかという議論はちっとも出てこないときがある」
「女性が多い会議は時間がかかる」という発言が話題となっている今、タイムリーな一節。男性の方が「話し合い」が得意なんてことはない。結局、「話し合い」より、飲み会などでの根回し、裏工作で物事を決める昭和的な男性社会が今も続いているということなのだろう。会議に限らず「無駄な話」が長いのは、社会的立場とか知識とか経験をひけらかしたい人(つまり今の日本社会では男の方が多い)だと思います。