時間が経つにつれて、言葉が記憶となり、歴史となっていく。過去は日々再構成され、集団の記憶となる。それに抗うためには、個々の体験を残していくしかない。
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戯曲 福島三部作
第一部「1961年:夜に昇る太陽」、第二部「1986年:メビウスの輪」、第三部「2011年:語られたがる言葉たち」の三部からなる戯曲。戦後、福島の歩んだ半世紀が、ある家族の物語に重ねて描かれる。
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ヤマネコ・ドーム
一言で説明するのは難しい。明らかに震災と原発事故を踏まえて書かれた作品だが、時系列も視点もあえて混乱させた多声的な文体で、日本の戦後史そのものを問う物語となっている。
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献灯使
表題作は、原発事故を思わせる大災害を経て鎖国した日本が舞台。老人は死なず、若年層は虚弱で早世の運命にある。主人公の義郎は100歳を超え、食事も着替えも一人ではままならない曾孫の無名の世話をしながら暮らしている。
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地図から消される街 3.11後の「言ってはいけない真実」
青木美希『地図から消される街 3.11後の「言ってはいけない真実」』
8年が経ち、ついこの間の出来事のような気もする一方で、現在の問題ではないという印象も強くなっているように感じる。元号が変われば、風化の感覚は一層進むだろう。
言うまでもなく、原発事故は過去ではなく今の問題であり、廃炉作業だけでなく、避難者の苦悩も現在進行形である。母子で自主避難し、支援の打ち切りで困窮して自ら命を絶った母親のエピソードが紹介されているが、原発事故という特殊な人災の最大の罪は、人々の間に分断をもたらしたことだった。避難するか、留まるか。その溝は家庭の中にも生まれた。同時に、一部の例外をもって避難者を裕福だと誹謗したり、自主避難者を過敏だと嘲笑するような、社会の想像力の欠如も露わになった。
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ダークツーリズム
近年注目される「ダークツーリズム」に関する入門書。学術的な内容ではなく、主に旅行ガイド風の文章で構成され、ダークツーリズムがどういった旅かを分かりやすく示している。
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美しい顔
北条裕子「美しい顔」(群像2018年6月号)
震災で母を亡くした少女が、日常に戻ることを拒絶するかのようにカメラの前で“被災者”を演じる。芥川賞候補として発表された後、複数の無断引用箇所が指摘されたが、盗作か参考かという議論に個人的にはそれほど関心が無く、この作品を読んで一番に感じたことは、こうしたフィクションが書かれるようになるだけの時間があの日から経過したんだなぁということ。
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津波の霊たち 3・11 死と生の物語
リチャード・ロイド・パリー「津波の霊たち 3・11 死と生の物語」
英「ザ・タイムズ」紙の東京支局長による被災地のルポルタージュ。6年にわたる被災地取材の記録であり、津波被害、中でも児童の多くが犠牲になった大川小の遺族の話を中心に据えつつ、共同体や死を巡る日本人の心性をも掘り下げていく。東日本大震災に関する最も優れた記録の一つであると同時に、日本人論、日本文化論としても白眉の内容。
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ブルーシート
現代美術の領域でも活躍してきた飴屋法水の作・演出で、2013年に福島県の高校生によって上演された作品。多くの死と日常の消失を目の当たりにした高校生の“もがき”のようなものが、抽象的な断片の積み重ねと瑞々しい言葉で綴られている。第58回岸田國士戯曲賞受賞作。
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魂でもいいから、そばにいて ―3・11後の霊体験を聞く
奥野修司「魂でもいいから、そばにいて―3・11後の霊体験を聞く」
「霊体験」と聞くとオカルトか特別な現象のようだが、ここに記録されているのは、人が大切な誰かを失った時にそれをどう受け入れて生きていくかという、紛れもない現実だ。
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