一言で説明するのは難しい。明らかに震災と原発事故を踏まえて書かれた作品だが、時系列も視点もあえて混乱させた多声的な文体で、日本の戦後史そのものを問う物語となっている。
敗戦後の混乱期に「ホーム」で育った混血の孤児たち。ある日、一人の少女が近所の池で溺死する。事故とされたその死の記憶が元孤児たちに付きまとう。生者の物語と死者の物語が混ざり合い、過去と現在が交錯し、現実と虚構の境目が曖昧となる。
表紙の写真は太平洋・エニウェトク環礁にあるルニット・ドーム。米国による水爆実験の汚染土が封じられているが、老朽化でひび割れ、遠くない将来漏れ出すことが懸念されている。
そのドームは、不都合な事実から目をそらし続けてきた日本社会の姿に重なる。