ボラード病

吉村萬壱「ボラード病」

直接には描かれていないが、震災と原発事故を強く意識した小説。“素晴らしいふるさと”への同調圧力、集団意識の恐ろしさや、「絆」を声高に語ることのの醜悪さというテーマや問題意識には強く共感するけど、正直、このテーマは寓話として書くには適していないのではないか。現実の居心地の悪さの方が、ずっと複雑で、ずっと暗い。震災の前後、福島で暮らしていた自分には素直に物語に入ることができなかった。
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プロメテウスの罠3

「プロメテウスの罠3 福島原発事故、新たなる真実」

シリーズ3冊目。内容は少しずつ地味になってきたけど、病院や高齢者などの避難のリスク、除染、がれきの処理など、かえって大切なテーマが増えた。

原発爆発後に町民にヨウ素剤を配った三春町については、これまで称賛も含めて表面的な扱いにとどまっていたが、大熊町から避難してきた専門知識のある職員がいて、風向きも見て判断した経緯が明らかにされている。

また、除染でもがれきの広域処理でも電通に巨額の広告代が流れていること、東洋町が最終処分場の調査受け入れ表明をした際に、裏で山師のような人物が動いていたことなどもとても興味深い。

原発のコスト ‐エネルギー転換への視点

大島堅一「原発のコスト ‐エネルギー転換への視点」

原発のコストは、電力会社にとっては確かに安い。それはコストとリスクを未来へ先送りすることと、発電に直接関わる費用以外を、電源三法交付金などで国の負担とすることで、経営の外側に追いやっているからだろう。事故に伴う賠償コストを除いたとしても、本来なら使用済み核燃料などのバックエンドコストや高速増殖炉などに費やされる関連コストは考慮に入れないといけない。

もちろん原発を無くしても、これらの関連コストはすぐに解消されず、短期的には化石燃料の焚き増しや自然エネルギーの開発コストも含めて非常に高くつくことになる。ただ原発が安いという欺瞞のもとに政策を進めていくのではなく、本来のコストとリスクを見極めて判断していく必要がある。

夢よりも深い覚醒へ ―3・11後の哲学

大澤真幸「夢よりも深い覚醒へ ―3・11後の哲学」

リスク社会では中庸は最も無意味な選択肢になり、人は「リスクの致命的な大きさ」より、「リスクは事実上起きない」に傾いてしまう。命と経済性の天秤――倫理的に答えは明らかだが、その命が、想像の及ばない不確定な未来の命になった時、それは答えの無い“ソフィーの選択”になる。

原発事故を総括し、脱原発への思想を立ち上げようという試み。
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プロメテウスの罠2

朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠2」

良くも悪くもドキュメンタリー的で物足りない部分もあった1巻より、再処理の問題や気象庁の津波予測のミスなど、新聞らしい調査報道が増えた。英仏を通じた核燃料再処理も総括原価方式のような仕組みでコストが肥大化し、関係会社の間で環流して電気代に上乗せされている。下北半島の開発史も興味深い。福島の浜通りも同じ構図だけど、夢が先行した開発はやがて行き詰まり、歪んでしまう。

プロメテウスの罠1

朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 明かされなかった福島原発事故の真実」

原発事故後、政府、自治体、住民の間で情報がいかに伝わらなかったのか。非常に読み応えのある優れた仕事だが、良くも悪くもドキュメンタリー的で、「なぜ」への答えが物足りない面も。SPEEDIがなぜ使われなかったのかと、避難区域設定を巡る経緯については必読。

検証「大震災」 伝えなければならないこと

毎日新聞震災検証取材班「検証『大震災』 伝えなければならないこと」

昨年4月から毎日新聞に掲載されたもの。テーマごとに分けられ、震災の検証・記録としてはかなり充実しているが、回によって質にばらつきもある。書籍化に際して初期のものはもっと加筆修正しても良かったかもしれない。ただリアルタイムの検証記事として、貴重な記録でもある。