古川日出男「馬たちよ、それでも光は無垢で」
読もうと思いつつ、なかなか手が出なかった。
福島出身の作家が震災と原発事故の直後に福島を扱った、無理矢理言葉を綴ったような、小説と呼ぶべきか、随筆と呼ぶべきか、そもそも作品と呼んでも良いのか分からない文章。
著者は震災から間もない時期に福島を訪れているが、おそらく自覚しているように、その視点は古里を既に離れた部外者のものでしかない。
中盤から小説のように非現実が入り込んで、自分の過去の作品に言及し、歴史に言及して何とか文章を進めていく。
そうすることでしか書けなかったのだろう。何気なく挟まれた、「ここ数年、小説を誰でもにむけて書いてきたように思う。すなわち、想定しなかった。それが通用しない」という一言が印象に残る。
あの日を境に、少しでも想像力を持つ人は、読み手を想定しない、受け手を想定しない、そうした態度が不可能になった。それでも、向き合うことを避けては何も生まれない。涙を流しながら言葉を書き続ける凄みがある。何年か後、改めて読み直してみたい。