地図から消される街 3.11後の「言ってはいけない真実」

青木美希『地図から消される街 3.11後の「言ってはいけない真実」』

8年が経ち、ついこの間の出来事のような気もする一方で、現在の問題ではないという印象も強くなっているように感じる。元号が変われば、風化の感覚は一層進むだろう。

言うまでもなく、原発事故は過去ではなく今の問題であり、廃炉作業だけでなく、避難者の苦悩も現在進行形である。母子で自主避難し、支援の打ち切りで困窮して自ら命を絶った母親のエピソードが紹介されているが、原発事故という特殊な人災の最大の罪は、人々の間に分断をもたらしたことだった。避難するか、留まるか。その溝は家庭の中にも生まれた。同時に、一部の例外をもって避難者を裕福だと誹謗したり、自主避難者を過敏だと嘲笑するような、社会の想像力の欠如も露わになった。

著者は「手抜き除染」のスクープに携わった記者で、その取材の経緯も明かされている。巨額の公費が投じられた除染事業は、大手ゼネコンと、魑魅魍魎のように現れた下請け企業を潤しただけではないのか。除染作業はチェックされず、結果が検証されることもなく、スケジュールありきで避難指示の解除が進められた。ところが、実際に元の土地に帰った人はわずかで、若年層はほとんどいない。現実を直視すると、不都合な事実しか見えてこない。

2013年、南相馬市のコメから基準値を超えるセシウムが検出された。その際、農水省側は原発からの放射性物質の飛散を指摘したが、内閣府の主導で追及がうやむやになったことなど、丹念な取材で生々しい事実が幾つも明らかにされている。

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