小屋を燃す

南木佳士「小屋を燃す」

「畔を歩く」「小屋を造る」「四股を踏む」と表題作「小屋を燃す」の4編。医師として働きながら、私小説的な等身大の小説を発表してきた著者の退職後の日々。

うつ病を発症し、理想通りにはいかなかった医師としての半生。そして、退職。地元の仲間たちと小屋を建て、酒を酌み交わす。その日々もやがて終わりを告げる。

苦しみも喜びも時間の前には平等に遠ざかっていく。不器用な生き方でも、器用に世渡りしても、老いは平等に訪れる。時の流れの中で喜怒哀楽の記憶を見つめ、ただ地に足を付けて歩いてゆく。その先に、生死の境目は、それまで考えていたよりずっと淡いものだと気付く。

まだ老いを意識することがない自分にも、著者の屈託と、生きる喜びというには大げさな、ささやかな生の充足が染み渡る。小説を読む喜びが詰まっている。

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