文章読本

丸谷才一「文章読本」

「作文の極意はただ名文に接し名文に親しむこと、それに盡きる。事実、古来の名文家はみなさうすることによつて文章に秀でたので、この場合、例外はまつたくなかつたとわたしは信じてゐる」

文章術の本は、作家、記者、ライター、学者など、さまざまな立場の人の手で数え切れないほど書かれてきたし、今も新刊が続々と誕生している。その大きな流れの一つとして、谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫など、作家による「文章読本」がある。その中でも丸谷才一の文章読本は、作家系の本としては、谷崎らの先行作の内容を踏まえていることもあり、決定版と言っていいだろう。
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掌の小説

川端康成「掌の小説」

掌編小説集。収録作は百編余。散文詩というような、限界まで削ぎ落としたような作品群で、気の利いたオチのあるショートショートではない。軽い読み物のつもりで手に取ったものの、いざ開いてみると一編、一編、読むのに体力が入り、一年以上かけて少しずつ読み進めてきた。
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無伴奏ソナタ

オースン・スコット・カード「無伴奏ソナタ」

11作が収められた短編集。表題作と冒頭に収録された「エンダーのゲーム」(後に長編化された)が有名だが、どれも傑作。明確なオチや背景の説明、あっと驚く結末が用意されているわけではないが、ドラマ性豊かで、それぞれに寓話のような読後感を残す。ハードSFというより、ファンタジー要素が強い。
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百年と一日

柴崎友香「百年と一日」

33の物語。いずれも短編というより掌編の短さだが、まずタイトルの長さが目を引く。

冒頭に収められているのが「一年一組一番と二組一番は、長雨の夏に渡り廊下のそばの植え込みできのこを発見し、卒業して二年後に再会したあと、十年経って、二十年経って、まだ会えていない話」。
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